視点
“新たな労務リスク”に無防備すぎないか
2011/08/04 16:41
週刊BCN 2011年08月01日vol.1393掲載
近年、新型労災がクローズアップされている。新型労災とは、長時間労働やパワハラ等から精神疾患に陥るケースでの労災認定件数の増加である。10年前と比較すると5倍を超える認定件数になっている。精神疾患の労災認定で、企業側に「安全配慮義務」があった場合には損害賠償責任が生じる。現に、企業相手の訴訟も激増している。今年3月には、急性アルコール中毒で死亡した社員に対して会社として5900万円の損害賠償の判決が出た。過度の飲酒をするようになったのは精神疾患が原因で、その精神疾患は、長時間労働が原因であるという理由からだ。5月には「日本海庄や」の過労死訴訟の控訴審判決で、社長ら役員4人に計7863万円の賠償責任を認定している。
社員が精神疾患になった場合に、長時間労働の実態があれば、その因果関係を認める傾向が強くなっている。厚生労働省も労災認定基準のなかで、「(1)発症前1か月間に概ね100時間、または(2)発症前2か月から6か月間にわたり1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められるときは、業務と発症との関連性が強いものと評価できるとする」との見解を示している。長時間労働は、会社経営にとって安全配慮義務違反という損害賠償の対象となるリスクとなったことを意識しなければならない。
労災認定された場合には、労災保険からの給付で損害がまかなえるわけではない。会社に責任がある場合は、労災保険が調整され、死亡したケースでも損害額から1000万円程度が免責されるだけである。これを労災差額リスクという。実際に、重度障害になったケースでの労災差額リスクはとてつもなく大きな金額になる。昨年2月に鹿児島地裁で出た判決は、1か月200時間を超える残業が原因で脳梗塞で倒れ、寝たきりの状態になった被災労働者に対して、慰謝料や介護費用、未払い残業代などを含め1億9400万円の損害賠償責任を負わせている。新たな労務リスクへの防衛策を講じなければ、思わぬところで企業経営に重大なリスクが生じてしまうことになる。
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