クラウドアプリ界の異端 ブランドダイアログ~その“キセキ”を追う
<クラウドアプリ界の異端 ブランドダイアログ~その“キセキ”を追う>第3章 過去に手がけた「ナーチャリング」が「Knowledge Suite」の“血”だった
2011/07/26 20:29
顧客スコアリングの前段階、プロダクトの競争力測定が重要
この成功のあと、「リード・ナーチャリング」は、「新人教育用SFA」と位置づけられるなど、サービス基盤の進化を遂げていった。この成功をきっかけに稲葉社長が先駆的に取り組んだことが、後に多くの企業で顧客起点のCRMマーケティングとして採用されていった。「営業が必要な情報や営業を強化するタイミング、プロダクトに対するニーズを汲み取り、見込み客を獲得してSFAを通じて育成させるプロセスは、当社の『Knowledge Suite』の“血”となっている」と稲葉社長が語るように、過去の成功体験があったからこそ、ブランドダイアログ設立当初、失敗や競合関係を恐れずに突き進むことができたのだろう。稲葉社長は、「『リード・ナーチャリング』の基本は、メールによるマーケティングやスコアリング以前に、プロダクト(この場合は自動車)自体の競争力の測定が重要だ。根底にある顧客ニーズとの乖離を理解ぜずに、小手先の手法を使うだけで、本来検証すべき商品力測定の定性データを見落としがちだ」と指摘する。その点、「Knowledge Suite」は、商品のニーズや競合製品との差を特定するためのナレッジベースを実装して、「リード・ナーチャリング」を実施する際のプロダクトマーケティングを重要視し、これらを機能に盛り込んでいるのだ。
「Knowledge Suite」は、すべての情報を企業に紐づけ、企業に属する人同士を結び付ける。人に紐づく情報やファイルを一元化し、スコアリングができる。見込み客の状態をアウトプットし、営業活動の効率化を促進させながら、BI(ビジネス・インテリジェンス)で内部成果を可視化することができる。
同時に、この連載の第1章と第2章で説明した「動的可視化」が機能し、営業の内部成果は閲覧権限によって、必要な人員に対して数字そのものが可視化される。役員は、会社全体の経営状況を把握でき、一般社員は自分の営業成績や部の営業成績だけ把握できる。この数字の「動的可視化」も自由に設定できるという特徴をもっている。前述した通り、米国的な「コラボレーションウェア」である一般的なグループウェアとは、概念が根本的に異なるのだ。
日報を書き込むだけで実現するSFA
「KnowledgeSuite」は、獲得した名刺と営業日報を毎日書き込むだけで実現するSFAといえる。毎日のように営業日報を書き込むだけで、蓄積される情報をアウトプットし、営業活動の指針を弾き出すことができる。顧客管理機能であるコックピットは、営業フェーズや見込み度、自己評価、顧客規模、地域などを統計的に示すことができ、「次なる一歩をつくり出す指針として活用されている」(稲葉社長)という。さらに、企業ごとに設定されるKPI(重要業績評価指標)を自由にカスタマイズでき、リアルタイムに表示することで、戦略的に攻める顧客を浮き彫りにできる。例えば、「今月、部の売り上げが1000万円足りない。A指標とB指標、そしてA評価とB評価を積み上げると、部全体で1500万円の見込み客が存在する。営業はこの顧客だけ攻めろ」という経営判断を即座に下すことができるというわけだ。さらに「KnowledgeSuite」の特徴を説明しよう。すべての顧客情報に、営業日報をはじめ、グループウェア上のスケジュールや会議などの情報を顧客に紐づけたり、ファイル共有でアップロードされているファイルや“Twitterライク”な社内メッセージ情報もすべて顧客側で一元管理したりできる。これによって、例えば営業担当者が退職したときの引き継ぎや、異動に伴う顧客の引き継ぎにかかる手間を最小限にすることができる。現在に至る営業活動のプロセスを、スケジュール、会議、社内メッセージ、営業日報、ファイルなど、すべての情報を顧客で管理することができるので、「なぜこの顧客との関係を築き、いつからどのようなプロセスで人脈構築してきたか」などの履歴を容易に遡り、受注内容までも一元化できるのだ。
また、受注率や営業担当者ごとの目標達成率、そして売上管理など、経営情報に関わるものは、BIを通じてリアルタイムに集計され、閲覧できる。このBIは以前、当サイト「BCN Bizline」でも取り上げた(「ウイングアークとブランドダイアログ、協業に秘めた思惑」)が、ウイングアークテクノロジーズとの業務提携で実現したBI「Dr.Sum EA」を実装している。CSV出力をはじめ、各種グラフを自由に設定でき、集計した情報のドリルダウン、ドリルスルーも自由に、そして簡単に行うことができる。
これだけの業務アプリケーションを安価に導入でき、グループウェアをはじめとした多数の機能が連携できているのには驚かされる。稲葉社長が長年営んできた「CRMマーケッター」として知見が凝縮されているといえるだろう。稲葉社長は、「今まで見込み客と考えられていなかった名刺やインターネット上で獲得した見込み客を潜在顧客から顕在化させるSFAであり、その顕在化された顧客を基幹に送り込んで情報を連携させるSFAだ」と話す。
顧客登録で10円というモデル
専門家ならずとも、従来型の顧客情報にSFAで拡張されるサービスとは少々異なっていることが容易にわかるはずだ。顧客情報登録と営業日報1件の書き込みで10円という蓄積型のビジネスモデルで、グループウェアと同様に導入障壁が非常に低いといえる。さて、ここまで、ブランドダイアログが提供する「GRIDY」と「Knowledge Suite」のリリースから現在までの“キセキ”をたどってきた。だが、筆者には、将来にわたって売れ続けるための必須条件が欠けているように思えてならない。それは、「どう売るか」であり、「どう利益を上げるか」だ。ユーザーの規模が大きくなって利用者の要件が複雑化すれば、今の人員や開発体制では、拡大の余地はそれほど大きくはないだろう。
「Knowledge Suite」は、1社に蓄積するデータ量、1GBあたり月額2000円、SFA蓄積データは1件10円で利用できる。これに、現在の有料版の導入数である800社をかければ、ある程度売上高は想定できるが、サービス・リリース当初の投資の損益分岐点を超えているかどうかは微妙だ。事業継続にかかわる何らかのカラクリが隠されているに違いない。この疑問をひっさげ、あらためて稲葉社長と相対することにしよう。(谷畑良胤)
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