視点

小さな雲を集めて“みんなのクラウド”

2011/07/21 16:41

週刊BCN 2011年07月18日vol.1391掲載

 クラウドという考え方をユーザーの視点から理解することは難しくない。しかし、情報技術産業に長年携わってきた者にとって、自らの事業としてどのようにクラウド事業に取り組むべきか、理解するのはそうたやすいことではない。

 クラウドサービスの一つであるIaaSについてはすでに提供各社とも手応えを感じているようではあるが、これで国内のクラウドビジネスが動き始めたと考えるのはいささか性急である。国内のIaaSは、一部オンデマンドサービス化が始まってはいるものの、そのほとんどは従来の物理サーバーのレンタル事業を仮想サーバーのレンタル事業に置き換えたものに過ぎず、とてもクラウドと呼べるシロモノではない。実際、PaaSやSaaSとなると、国内大手事業者にも未だに先がみえないというのが実情である。このような状況の下で、小規模事業者の多くはクラウド事業参入のきっかけを掴めず、さまよい続けている。実際、私の周りの情報企業経営者からは、これからの事業をどのように展望すればよいか分からないという嘆きが聞こえてくる。

 そこで、小規模事業者がクラウド事業に取り組むためのアイデアを一つ提案したい。クラウド基盤技術には、今すぐオープンソースで手に入るものがいくつかある。小規模事業者がそれを利用して単独で事業化することは難しいが、多くの事業者が集い、同じ技術でクラウド基盤を構築して、各自が運用し相互にサポートするという枠組みをつくれば、そこにいろいろなクラウド事業の機会がみえてくる。

 ここで採用するクラウド基盤技術は代表的なパブリッククラウドと互換性のあるものが望ましい。同じ基盤技術を共有してさえいれば、例えばウェブサーバーの仮想アプライアンスを誰かが一つ構築すれば、自分たちのプライベートクラウドではもちろん、互換性のあるパブリッククラウドでも動作するので、他の誰も同じようなウェブサーバーを構築する必要がなくなる。

 また、誰かがこのクラウド基盤上にサービスを開発すれば、互換基盤を運用する誰もがそれを利用し、サービスとして提供することが可能になる。すなわち、同じ技術を使ってクラウド基盤を構築し、参加企業各自がそれを運用するならば、仮想アプライアンスやクラウドサービスを相互に交換することのできる交易市場が生まれる。また、参加企業にはクラウド基盤構築・運用・管理のノウハウが蓄積される。これを実践する試みとして、私たちは「みんなのクラウド」というプロジェクトを立ち上げた。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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