視点

地域活性化政策は「鶴瓶的アプローチ」で

2011/06/30 16:41

週刊BCN 2011年06月27日vol.1388掲載

 多くの行政体は、地域資源を活用した地域活性化策を掲げて、地域振興を決意する。そこで外部コンサルタントに委託し、地元の地域資源を確定するために現状分析をして問題と課題を発見し、その結果からその地域にふさわしい地域ビジョンを構想し、地域計画を実施する。それが地域再生の王道である。しかし、このやり方で成功した試しがない──とは言いすぎであるが、財政状況が極度に悪い今の行政体にとって、この計画を全面的に実行する余裕はない。わが岐阜県も、然りだ。

 そこで、発想を転換してみる。NHKに「鶴瓶の家族に乾杯」という番組がある。これは、笑福亭鶴瓶がゲストと一緒に地域に入り、そこで巻き起こされた小さな出来事を通して、地域の人々が自分の暮らす日常世界がいかに幸福であるかに気づく、という仕掛けのドキュメンタリーである。これは、鶴瓶という異邦人の突然の登場で、地域の日常性が一瞬壊れ、非日常的な歓喜に包まれるが、その後、鶴瓶が感嘆する日常生活の地域らしさを認識することで、人々が普段の生活感覚に戻りながら、その過程で自分たちの日常の幸福感に気づくという仕組みである。これこそ、幸福の発見による地域活性化手法であり、見事である。

 地域活性化政策に必要なのはこの鶴瓶的アプローチである。日本の地域はすでに幸福なのに、不幸だと思い込み、日常の粗探しをして、それを問題にして解決しようとする。貧しい社会ならば、問題発見と解決は不可欠であるが、今の日本の地域では、幸福の再発見を優先すべきである。家族を基点として小さな幸福を多数発見し、それを身近な人々と協働しながら少しずつ拡張する方策こそが新しい。それは、地域を「対象として調査」するのではなく、異邦人と一緒になって地域で「協働しながら発見」する方法論である。

 岐阜ソフトピアの「アイラボ」は、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の入江経一教授をリーダーとするデザイン協働体で、まさに異邦人である。だからこそ、地元と一緒になって地域資源の掘り起こしを行い、そこにデザインのスパイスを混ぜることで、これまでにない協働の成果を誘発させることができそうである。まだ始まったばかりなのでこれからが本番だが、期待は大きい。これこそ気づきの瞬間を誘発する仕組みであり、新しい地域活性化の手法であると確信している。
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