クラウドアプリ界の異端 ブランドダイアログ~その“キセキ”を追う
<クラウドアプリ界の異端 ブランドダイアログ~その“キセキ”を追う>第2章 挫折の連続、「GRIDY」初期の“光と影”
2011/06/30 20:29
津市教育委員会の導入がその先を決定づける
「Knowledge Suite」の正式リリースは、2010年1月。前述の奇跡を経た待望の有料版サービスインだった。ところが、その前段階に至っても、稲葉社長は納得できなかったという。有料版として売れるには、まだまだ機能のインプットとアウトプットの両機能が足りないと感じていたからだ。だが、正式リリースの前に、突如「GRIDY」を有料で買いたいという客が現れた。それは、三重県の津市教育委員会。NTT西日本や富士電機系列のITベンダーが津市教育委員会のシステム導入を支援しており、両社を通じてブランドダイアログのサービスが俎上に上がったのだった。折しも、文部科学省が「スクール・ニューディール構想」を掲げ、学習環境のICT(情報通信技術)の早期推進を予算化する時期。学校の教職員にも、パソコンの1人1台化が進められていた。津市では、役所内でグループウェアを導入していたものの、教職員が利用するパソコン環境は未整備だった。ブランドダイアログが作成した「導入事例集」によると、津市教育委員会は、当時教職員個人の1日を整理し、頭を整理してもらう目的でグループウェアの導入を検討していた。教職員1人1台化が進められるなか、その利便性を追求するため、国内のグループウェアをITベンダーと一緒に物色し、比較検討を繰り返していた。
津市教育委員会が「GRIDY」の導入を決定した理由について、「導入事例集」に登場する教育委員会の指導主事はこう指摘している。「他社のものは、個人を対象にしている。『GRIDY』は、個人と組織の間での情報共有のあるべき姿が実現できると確信した」。
ほどなく津市教育委員会は「GRIDY」を導入し、三重県内81校と教育委員会の研究所2拠点、教育委員会1拠点の全84拠点を「GRIDY」でつなぐことに成功した。「Knowledge Suite」正式リリースの3か月前のことだ。稲葉社長は「津市教育委員会の評価を得て、『有料版でいける』との感触を得た」と、当初掲げていた大型導入実績の確保という戦略への不安が払拭され、時期を違わず「Knowledge Suite」を発売するに至ったという。
サービスの特徴は「動的可視化」「ログ監視」
「Knowledge Suite」の真骨頂であり、選ばれる理由となっているのは、先の指導主事が指摘する部分にある。ブランドダイアログは、これを「『情報の見せる見せない』を実現させた『動的可視化』ができる」と説明する。取扱説明書には、こう説明がある。「組織、役職、グループ等でマトリックスを組み、初期に組織を設計するだけで、グループウェア内の全ての情報について『見せる見せない』を自動で制御される」。これだけではわかりにくいので、ある機能で簡潔に解説すると――同社の考えでは、本来、社長や取締役の行動や情報、ファイルは、役員以外の社員に見せるものではない。企業経営や重要な人事に関する行動や情報が多いだけでなく、悪意のある社員が役員の行動を競合に知らせるなど、経営情報が外部に漏れる危険性もある。とはいえ、社員は役員の時間が空いているかどうかは知りたい。「Knowledge Suite」では、役員の予定を社員に「予定あり」として見せている。また、ファイルなどの情報は、このヒエラルキーに即して上位権限のある人間だけが表示され、権限の無い人間には情報やファイルは表示すらされない。情報やファイルが存在することすらわからないという情報の「見せる見せない」を自動的に制御しているのだ。「Knowledge Suite」の肝はここにあるといってもいい。
稲葉社長は「Knowledge Suite」の理念を設計する当初から、念頭に置いていたことがある。「米国から来たグループウェアは、スペシャリストが使う『コラボレーションウェア』だ。従来のスペシャリストが利用するコラボレーションウェアは、フラットな情報共有のあり方で、成果物を作品と呼び、人に紐づく情報や作品として管理されている。この流れは、国内グループウェアにも引き継がれている。だが、日本の企業組織は、ピラミッド構造というヒエラルキーがある。企業内の情報やファイルは組織に紐づくもので、個人に紐づくものではない。たとえば、企業内で個人が部署を異動した際、グループウェア上でも個人の情報やファイルが部署の異動とともに他の部署へ移ってしまう。これはおかしい。本来、個人の情報は組織から持ち出せないようにすべきなのだ。これなら、競合他社への担当部署入れ替えがあっても、機密情報が外部に漏れる心配がない」。
米国型のフラットな共有に適している人に情報が紐づくグループウェアとは異なり、「情報は組織のものであり、人事異動には情報やファイルは移動できない。」と、バーチャル上でもリアルな組織や企業ごとのルールをできるだけ再現できる、新たな発想の情報共有基盤になっているという。世界に出回るグループウェアとは、発想が根本から異なるのだ。この使い勝手が、利用者に支持されるもっとも大きな要因といえそうだ。
もう一つ、ユーザーが「Knowledge Suite」を選択する際に目を留める機能に、「ログ監視」がある。現在のログ監視は、問題が発生した際の事故の発生理由を突き止めるための利用が主流である。ログ監視だけでは漏えい抑止効果が薄く、「Knowledge Suite」は、ログ監視の他「ログの共有」という機能をもつ。利用者のアクションログを取得するだけではなく、指定メンバー間で情報やファイルの閲覧、ダウンロード履歴までを公開共有し、情報漏えい抑止や報伝達漏れを防ぐことができる。この機能があれば、メールで情報を共有する場合に目にする「言った、言わない、見た、見ない」という伝達ミスを100%なくすことができるのだ。また、昨今話題となっているBCP(事業継続計画)によるクラウドニーズの拡大や災害時の安否確認など、ログを共有することで外部から安否を確認する手段としても、導入が進んでいるようだ。
「Knowledge Suite」は、情報共有という一般的なグループウェア機能にとどまらず、スケジュールに書き込まれた活動予定を営業日報で報告し、それをスイート製品のモジュールであり、共通のデータベースで連携している営業支援SFA/顧客管理CRMに入れ込まれ、「これから起きる未来の活動予定を入力するスケジュール機能」と「過去の活動を報告する営業日報」をシームレスに連携させることで、未来の活動と過去の報告を同時に共有することができるのだ。よく他製品との比較表を目にするが、その比較表では表すことのできない、その先にあるアドバンテージの理解を進めるために、同社は対面取引にこだわり続けている。
次は、「GRIDY」グループウェアから進化した「Knowledge Suite」の全貌と将来像を洞察してみよう。(谷畑良胤)
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