震災後の情報サービス 変容するIT投資のゆくえ

<震災後の情報サービス 変容するIT投資のゆくえ>第1回 プロローグ

2011/06/09 16:04

週刊BCN 2011年06月06日vol.1385掲載

 東京電力管内を中心とした電力事情の悪化は、日本のITシステムのあり方そのものを大きく変えようとしている。省エネルギーや事業継続計画(BCP)などの需要が顕在化し、ITベンダーはサービスメニューの見直しや商材の再編に取り組み始めた。見方を変えれば、これを機に旧態依然の企業システムを再構築するチャンスでもある。今夏に向けて省エネ、BCPなど“震災関連”の需要は高まりをみせている。さらに、これを一過性のブームに終わらせることなく、将来の新しい市場形成につながるアプローチが欠かせない。この新連載では、国内ITベンダーの取り組みをレポートする。(取材・文/安藤章司)

この夏、省エネが社会ニーズになる
客先設置型ITの移転進む

厳しい状況、長期化へ

 今夏は“暑い夏”がやってくる。有力SIerのアイティフォーは、6月からの服装についてクールビズを義務化した。従来のクールビズは“奨励”止まり。異例の措置だ。思い切った節電をするため、まずは社員の身なりを変えた。夏場に、もし再び計画停電が起こった場合への備えも万全だ。

 同社は6月末までに、大阪の事業所や社員の自宅など、社外でソフトウェア開発を継続することができる体制を確立する。ソフト開発機能を大阪へ一部移転することで、「首都圏の事業所は、夏場のピーク時で最大25%程度の節電ができる体制が整う」と、アイティフォー社長の東川清は胸を張る。

 国の電力需給に関する検討会合は、首都圏・東日本地区の事業所や家庭などで、一律15%というピーク時電力の削減目標を掲げた。この節電対策が失敗すれば、再び計画停電の憂き目にあう厳しい状況にある。東京電力の福島第一原子力発電所の事故で、“原発不安”が飛び火し、中部電力の浜岡原子力発電所の停止を招いた。さらには、九州電力でも電力不足が懸念される事態となっている。

 電力が安定供給されることを前提に構築してきた情報システムは、電力供給不足に非常に弱い。予想もしなかった原発事故によって、電力不安は長期化する様相だ。もはや今夏だけやり過ごせば解決するという問題ではない。 日本は“省エネ先進国”と評されることが多い。中身をみると、工場の生産ラインや都市部の鉄道システムなど、確かに局所的な省エネにはすぐれている。だが、その一方で「社会全体で最適化された省エネという面では、まだまだ改良の余地は大きい」と、省エネに詳しい野村総合研究所(NRI)の上級研究員である古明地正俊は、全国の省エネ対策を推進するうえで、より広範囲な課題解決が求められているという。

無理のない恒久対策必要

 「社会全体で最適化された省エネ」とは何か。究極的には、発電や蓄電、消費といったすべての電力関連デバイスがネットワークで結ばれ、効率的な電力運用が可能なスマートコミュニティ的な形態になるとみられる。だが、一足飛びにそこまでに至るのは難しい。

 まずは、機器単体ベースの節電から、事業所全体の節電、さらに、その省エネの仕組みを地域に広げる段階的なアプローチが必要だ。

 電力は当面、不安定な状況が続くことが想定される。事業継続プラン(BCP)の対策も欠かせない。省エネが実現され、なおかつ国のエネルギー政策に基づく電力供給体制が安定してくるまでは、まだしばらく時間がかかる。一過性の対策ではなく、恒久的な無理のない省エネとBCP対策が求められている。

 ITベンダーは、省エネとBCPを柱として、さまざまな商材開発に力を入れている。下図に示したのはその一例だ。ユーザー企業の事業所内に設置してあるIT機器を、極力、外へ分散させるよう提案されていることが分かる。従来型の客先設置(オンプレミス)型のシステムでは、停電に耐えられないからだ。サーバーは発電設備を備えたデータセンター(DC)に入れ、クライアントは“どこでもオフィス”方式で、会社内のどのフロアでもPCが使えて、必要ならばサテライトオフィスや自宅でも情報セキュリティを保ちながら使える商材が目白押しに並ぶ。

 情報システムそのものの省エネはいうまでもないが、ITの力を駆使した省エネの推進も重要な要素である。ITが経済活動に不可欠ものになっている以上、ITをより積極的に活用し、恒久的に省エネや事業継続に役立てる姿勢が大切だ。本来は、省エネに加えて、太陽光や風力、地熱などの自然エネルギーを組み合わせて、経済成長を持続させるべきだろう。だが、これら「新エネルギー」の開発は発展途上にある。この連載では、まずはIT活用型の省エネと事業継続(BCP)を軸としたベンダーの取り組みと、最新のビジネスの動向を追う。(文中敬称略)

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