視点

技術を隠すクラウドサービス

2011/05/26 16:41

週刊BCN 2011年05月23日vol.1383掲載

 仮想化環境を自宅で構築するために適当なサーバー機を物色していたところ、4コアのインテルXeon X3430を搭載した大手メーカーのサーバー機が3万円弱で売られているのをアマゾンで見つけ、早速購入することにした。ただし、メモリは1GBだけ、ハードディスクもOSも付いていない。そこで、デスクトップ用メモリを16GBと、1TBのハードディスクを取り付けることにしたが、すべて揃えて5万円ほどで手に入れることができた。

 これをシンクライントサーバーとして使うなら、20~30ユーザーほどを対象に余裕でアプリケーションを配信することができるし、仮想化ソフトウェアを利用すれば、控え目にみても4~5台分の仮想Windowsサーバーを実用的に運用することも可能である。さらに、この程度のサーバー機を2台と、仮想化対応CPUを搭載したパソコンを1台用意すれば、オープンソースのクラウド構築ツールを使って最小構成のクラウドコンピューティング環境を構築することさえできる。ハードウェアの低廉化に加えて、仮想化技術によるハードウェアの利用効率が著しく向上し、クラウド構築ツールもオープンソースとして提供されるようになったため、誰もが手軽にクラウド運用基盤を構築して利用できる環境が整ってきた。

 この事実は、技術そのものの売買に商売の機会を見出すことがますます難しくなってきたことを示唆している。これまでのソフトウェア産業は、それぞれの企業の技術力をパッケージというかたちで、そして技術者の高度な知識を開発受託というかたちで提供することを商売の糧としてきたが、そのような商売の仕方が立ち行きにくくなってきたことは誰の目にも明らかである。

 知人の商社マンとクラウドサービスについて意見交換した折に、クラウドサービスの振興にはデマンドプル型のマーケティングアプローチが必要であり、テクノロジープッシュ型のアプローチを取る情報技術企業にはクラウドビジネスを主導できないという考え方を聞かされた。確かに、私の知る情報系大手企業の方々は、クラウドサービスを技術的側面に偏って捉え過ぎているように思われる。クラウドサービスは、ユーザーに対して技術を主張するビジネスではなく、ユーザーの目に触れぬよう技術を隠すビジネスであると考えるべきではないだろうか? クラウドへの潮流は、技術面に偏ったこれまでのビジネスアプローチの修正を私たちに迫っている。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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