定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~

<定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~>第10回(最終回) どちらが先か、「クラウド訴求」と「海外展開支援」

2011/03/25 20:29


 二つ目は、「企業の売上げを引き上げるためにどれだけ寄与できるか」という観点である。図3は、年商500億円未満のSMB1000社を対象に「海外へビジネス展開する際の対象地域とそれを選んだ理由」をたずねた結果である。

図3 海外展開を実施/予定する地域として選んだ理由(複数回答可)

 海外展開先として最も多く挙げられているのは、中国である。選んだ事由として最も多いのは、「自社の製品/サービスにとって大きな市場である」だ。以前の中国は安価なアウトソーシング先という位置付けだったのだが、現在は新たな市場としての期待が大きい。さらに、「地理的に日本に近い」「今後経済的な発展が見込める地域である」といった要素も大きく影響している。このように、海外へのビジネス展開は企業の売上げを直接的に引き上げる取り組みといえる。売上げの増加が期待できるのであれば、それを見越した先行投資をする機運も高まってくるだろう。

 一方、クラウドはIT関連コスト削減の手段と捉えられている。そもそもの動機が「削減」なので、それに投じる額が大きくなることは考えにくい。今後、クラウドの活用が進めば、売上増に寄与するソリューションも登場してくるだろう。だが、そうしたソリューションが登場し、ユーザー企業の意識が変わるまでには、まだしばらくの時間を要すると予想される。

 ここで、クラウドと海外へのビジネス展開の関係を、改めて見つめ直してみよう。クラウドはあくまで手段である、ということはすでに述べた。実は、海外展開において有効な手段の一つがクラウドだ。ITリソースを集中管理し、各拠点にIT機器を導入しなくてもいいというクラウドの特性は、海外展開を効率的に実践するのに適している。つまり、クラウドという「手段」を必要とするビジネス視点での「目的」の最たる例が海外展開なのである。

 本稿は、疑問を呈するかたちで『どちらを先か、「クラウド訴求」と「海外展開支援」』と題したが、結論として述べたかったのは、「海外へのビジネス展開に取り組む企業のIT活用手段としてクラウドを訴求するのが有効」ということにほかならない。

 人口減少などの要因で、今後大きな伸展が望めない国内市場の現実を踏まえると、海外へのビジネス展開は、SMBも無関係ではいられない大きな流れといえる。ノークリサーチも、中国をはじめとする新興市場を国内の都道府県と同じ位置付けにして、国内と同様に市場の調査・分析を展開する体制の構築を開始した。国内のSMBが新たな市場への活路を見出し、IT企業がそれを力強く支援することでIT関連市場全体が活性化するという流れに、微力ながら寄与できればと考えている。

 本連載ではいわゆる「定石」と言われている事柄を調査データに基づいて再考し、そこからみえてくるIT活用訴求のヒントを探ってきた。今回で本連載はいったん終了となるが、今後も引き続き市場調査を通じた活動に尽力したいと考えている。近い将来、ユーザー企業とIT企業の橋渡しには何が必要かを考え、それを読者の皆様と共有する機会をいただければ幸いである。

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ノークリサーチ シニアアナリスト 岩上由高

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外部リンク

ノークリサーチ=http://www.norkresearch.co.jp/