定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~
<定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~>第10回(最終回) どちらが先か、「クラウド訴求」と「海外展開支援」
2011/03/25 20:29
※IT投資DI:今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかをたずね、「増える」と「減る」の差によって算出したIT投資意欲指数」
しかし、回復基調に入ったと判断するのは、まだ早計だ。北アフリカや中近東で拡大する反体制デモによる原油高、各地の異常気象がもたらす不作に起因する食品原材料高といった事象は、国内のSMBにも少なからぬ影響を及ぼすだろう。さらに、「IT投資の中身」にも注意が必要だ。IT投資DIが改善したとはいえ、その要因は「現状を維持するため」という更新需要が多くを占める。原油高や食品原材料高によって経済環境が悪化すれば、ITインフラや業務システムの更新が先延ばしにされ、IT投資が再び強く抑制される恐れは十分にある。
では、こうした局面で、IT企業は誰にどのようなソリューションを提案すればいいのだろうか。特定の業種・業態では、業績改善や生き残りを賭けたIT活用への取り組みが活発であり、こうした特化型のニーズは今後も重要度を増していくだろう。また、PCからの情報漏えいを防ぐためのセキュリティ対策や、出張旅費削減に直結するウェブ会議など、特定の業種に依存せずに幅広く訴求できるソリューションもいくつかある。だが、SMBのIT投資が右肩上がりであった時代に比べると、いずれもピンポイント感(短期で獲得可能な市場規模が小さい)が否めない、というのが頻繁に聞かれる意見だ。
そこで注目を浴びたのが、クラウドである。ユーザー企業が、「クラウド活用によってIT関連コストを削減できる」という期待を抱いているのは事実だ。しかし、すでに社内で稼働している情報システムについては、それをクラウドへと移行するのにかかる手間が、クラウド移行によって得られるコスト削減効果を相殺してしまうケースがある。情報システムが大規模で、それらを集約することで多くのメリットが得られる大企業と異なり、SMBでは「変えることの負担」が大きな障壁となる。
この連載でも何度か述べているように、クラウドはあくまでも「情報システムの構築・運用の新たな選択肢の一つ」に過ぎない。「手段ありき」の提案では、更新需要主体のユーザーの意識を変えることは難しいといえるだろう。
そこで注目したいのが、SMBの海外へのビジネス展開だ。もちろん、取り組むSMBはまだ全体の一部である。クラウド活用を実施・検討している数と比べても、まだ少ない。だが、海外展開へ取り組む個々の企業をしっかりとサポートすることで、SMBに対して投網式にクラウドを訴求するよりも大きな成果が得られる場合がある。
その一つ目の根拠が、以下のデータだ。いずれも年商500億円未満のSMB1000社を対象に実施した定点観測調査結果の一部である。図1は、「IT投資を今後増やすかどうか」を、海外へのビジネス展開状況別に集計したもので、図2は同じ設問をクラウドへの取り組み状況別に集計したものだ。
図1で「IT投資を増やす」と回答した企業の割合は、「拠点あり、展開済み」で13.0%、「拠点あり、展開予定」で22.4%となっている。これはある意味当然だ。すでに拠点を伴う海外展開を果たしている企業よりも、これから海外拠点設置に取り組もうとする企業のほうが、多くのIT投資を見込んでいるはずだからである。
では、図2はどうだろうか。「すでに活用している」で22.4%、「活用を検討中」で15.8%となっている。「クラウドへ移行することでITコストを削減する」が広く一般に実現できているとすれば、クラウドを「すでに活用している」企業のIT投資は「活用を検討中」より少なくなっていいはずだ。
もちろん、クラウドはまだ黎明期なので、試行錯誤が続いているという点を加味する必要がある。さらに、クラウドへ積極的に取り組む企業は、クラウド以外のIT投資にも積極的という傾向もあるだろう。だが、理由はどうあれ、ここで注意すべきは、今後クラウドへ取り組もうと考えている企業のほうが、すでにクラウドへ取り組んでいる企業よりもIT投資見込みが少ない、という傾向である。
現段階ですでにクラウドへ取り組んでいる企業は、ITへの理解が比較的深いユーザーといえる。だが、これからクラウド活用を検討する企業は、もっとダイレクトにコスト削減効果を求めてくるだろう。より安価なコストでより高い効果を求めてくる可能性が高いといえる。その点を考慮すると、対象となる企業の数は限られるかもしれないが、これから海外展開へ取り組もうとする企業のほうが、IT投資を引き出しやすい面があることを上記の調査データは示している。
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