視点

公的支援のニュースタイル

2011/03/03 16:41

週刊BCN 2011年02月28日vol.1372掲載

 スマートフォンのアプリ開発といえば、iPhoneがブームを引き起こした頃から、私が属するソフトピア(岐阜県)の周辺でも「アンドロイドをどうするか」という声があがっていた。ソフトピアとしては、iPhoneだけの開発拠点で終わるわけにもいかないので、「今度はアンドロイドですね」という軽いノリで、コミュニティづくりの支援を始めた。

 役所の本来の筋からすると、事を起こす前にはすべての書類を作成し、上司に根回しを行い、またその上の上司にも承諾を得てからでないとスタートが切れない。だが、そんな悠長なことをしていては、支援などできるわけがないので、何でもいいから、まずは動くことにした。予算措置もないに等しいので、支援といっても、ただメールで情報を提供し、「自主的なアンドロイド研究会を立ち上げましょう」と呼びかけ、ちょっとしたイベントを提供しただけである。この指とまれ方式で、興味・関心のある人だけが三十数人集まることとなった。実際の作業は各自のアプリ開発に専念しながら、専門的な情報を持ち寄って話し合い、夜は懇親会を開いて、ソフトピアに宿泊し、翌日の終わりに自分たちの成果の自慢(?)大会をして解散するという、小さな、しかし実のあるイベントだった。

 コミュニティは、ちょっとした仕掛けと支援で十分に機能することを身をもって知った。集まる人たちがもつスキルと、今回のように、アンドロイドの開発にみんなで挑戦していこうという熱い思いが重なるだけで、自主的で積極的なコミュニティ活動が展開される。

 このスタイルは、民間企業ではさすがに無理で、公的機関が支援することで、新しい開発へのドライブがかかることを実証した一つの方策だなと実感した。公的機関の使命は、タイミングときっかけを読み、流れをうまくつくるように情報と場所を提供するだけで十分。あとは、まさにボランタリーに関係性が生成されて、自然にコミュニティが動き始める、ということのようである。昔、公的資金が溢れていた時代には、上から目線で管理するスタイルで応募を審査し、事業採択して資金提供するだけで、何かできた気持ちになっていたものだ。しかし、今は、そんな資金がないからこそ、タイミングときっかけを見極める目利きになって、成果を出すしかない。これが公的支援のニュースタイルなのであろう。頑張りましょう、地方なりに。
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