視点

クラウドは「サービス創造」の視点で臨め

2011/01/27 16:41

週刊BCN 2011年01月24日vol.1367掲載

 情報産業の象徴的存在であるインテルの創業者アンドリュー・グローブは、かつて、「すべての企業がインターネット企業になる」と言い放った。そのインターネット基盤技術を提供してきた情報産業の多くが、未だにインターネット企業になりきれていないというのは、はなはだ皮肉な現実である。その情報産業も、ASP、SaaS、クラウドコンピューティングという潮流のなかで、セールスフォースという顧客管理ソフトウェア業者、グーグルというインターネット検索業者、そしてアマゾンという書籍販売業者の後塵を拝するに至り、ようやくインターネット企業になろうという兆しをみせ始めた。クラウドコンピューティングを構成するSaaS、PaaS、IaaSというサービスモデルを先駆的に事業化してきたこれらの企業が、いずれも伝統的な情報技術中核企業ではなかったということは大変興味深い。この事実は、クラウドコンピューティングという新たな情報産業の潮流が、情報技術そのものよりも、むしろそれを利用した新たなサービスモデルの創造へと重心を移したことを示唆しているといってよいだろう。

 一方、昨今のわが国情報産業市場に目を向けると、そこにみえるのは、従来の物理サーバーのレンタル事業を仮想サーバーのレンタル事業へと置き換えただけのIaaS、パッケージソフトウェアを単純にオンデマンド配信可能にしただけのSaaS、そして、クラウドコンピューティングが普及するにつれて従来の情報技術製品の売り上げが逓減し、その商流が崩壊することを危惧する情報産業関係者の姿である。しかし、クラウドコンピューティングの本質は、単にハードウェアやソフトウェア機能をオンデマンドで廉価に提供することにとどまらず、組織的、地理的障壁を越えて、人々が協調的に、そして効率的に働くことができる環境を提供することにある。そこに、ワークフローを、ビジネスプロセスを、そしてマネジメントを大きく変える基盤として、クラウドコンピューティングを育てるという商機を見出すことができる。

 クラウドコンピューティングがこれまでの情報産業の技術体系やビジネスの仕組みを大きく変えるものであるとの認識を真摯に受け止め、情報技術製品の製造販売に偏っていたこれまでの情報産業体系を自ら見直し、情報技術の利活用を促進するためのサービスの創造に重心を移して、来るべき時代のニーズに合った情報産業体系を再構築することが私たちに求められている。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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