定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~
<定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~>第8回 小規模企業は中堅・中小企業を延長した裾野ではない
2011/01/12 20:29
では、こうした大手ベンダーの小規模企業向け低価格IT機器を、ユーザー企業はどのようにみているのだろうか。図1は、年商5億円以上500億円未満のSMBと年商5億円未満の小規模企業に対して、「大手ベンダーが提供する低価格IT機器の導入意向」をたずねた結果である。
先に具体例を挙げた大手ベンダーが提供する低価格IT機器は、いずれも価格設定は10万円未満、実売価格は5万円前後の製品が主体だ。小規模企業でも十分拠出可能な金額といっていい。しかし、それにもかかわらず、小規模企業の56.0%が「導入する予定はない」と回答している。
一方で、年商5億円以上のSMBは、「導入を前向きに検討したい」という回答が20~30%と、小規模企業の10%強と比べて高い。つまり、小規模企業よりもSMBのほうが、大手ベンダーによる低価格IT機器導入の意向が高いという結果となっている。
なぜ、このような結果になったのだろうか。その答えを探すために、調査データをもう少しみていくことにしよう。図2は、年商5億円以上500億円未満のSMBと年商5億円未満の小規模企業に対して、「大手ベンダーが提供する低価格IT機器への期待やメリット」をたずねた結果である。
年商5億円未満の小規模企業は、「とくにメリットは感じられない」という回答が50.7%と過半数に達した。また、「管理作業に手間をかけなくても、導入・運用が可能である」や、「価格面での障壁が消えて、新規での機器導入が可能となる」という回答は20%強にとどまっている。つまり、低価格で運用管理性にすぐれたIT機器が大手ベンダーから提供されたとしても、それをメリットと感じる小規模企業はそれほど多くないのだ。
データ保全など、小規模企業のIT機器へのニーズが高まっているのは確かだ。だが、すでにこの市場を主戦場としているベンダーもこのニーズに追随しており、価格や運用管理の面で大手ベンダーが差異化することは難しい。また、小規模企業は、「大手ベンダーから提供されることでの安心感・信頼感がある」という回答がSMBと比べて低いことからもわかるように、ブランドへのこだわりが少ないということも影響している。
これとは対照的に、年商5億円以上のSMBは、約50%が「大手ベンダーから提供されることでの安心感・信頼感がある」ことをメリットに挙げている。価格面や運用管理面のメリットも約30%が支持し、「部署単位でのIT機器導入におけるコスト削減に役立つ」という回答は、年商規模が上がるにつれて増える傾向にある。
つまり、大手ベンダーが小規模企業をターゲットに開発した低価格IT機器にメリットを感じているのは、小規模企業ではなく、むしろSMBであるということになる。「SMB向けのIT機器を導入したいが、予算がない。だが、運用管理面やスペックの面で問題なく、低価格で信頼のおける大手ベンダーのものであれば、検討に値する。とくに、部署単位での導入でコスト削減に寄与できる」と、SMBは考えているわけだ。
であれば、こうした低価格IT機器を、SMB向けに訴求すればいいと考えがちだ。だが、SMBは、すでに付き合いのあるIT販社・SIerを通じたIT導入を望む意向が強い。実際に低価格IT機器の購入先をたずねた調査では、「既存の販社・SIerを経由したい」という回答が多くなっている。
そして、これら「既存の販社・SIer」にとっては、低価格IT機器は価格が安価であるために、利幅が確保しにくい。SMBにとってはメリットがあるが、ベンダーや販社・SIerの立場になると、積極的に訴求しにくい面があるのだ。
ここで思い出されるのが、冒頭に述べた「SMBは、大企業のミニチュア版ではない」という教訓だ。それと同じように、小規模企業もSMBをコンパクトにしたものでは決してない。同じIT機器であっても、「既存競合ベンダーの有無」「運用管理に対するニーズ」「ブランドに対するこだわり」といった面で、小規模企業とSMBでは考え方が大きく異なる。SMB向けに固有の戦略が必要であるように、小規模企業にも他の企業規模とは違う攻め方が必要になってくる。
高度なデータ保全などを目的としたIT機器導入という観点では、小規模企業市場はまだ黎明期の段階にある。この段階の購入者は、目利きのアーリーアダプタであることが多い。実際、先述のData Roboticsは、ITやエレクトロニクスのガジェットを紹介するニュースサイトでキャンペーンを行うなど、自社製品のメリットを理解できる比較的ITリテラシーの高いユーザーに絞った訴求を行っている。
このように、個々のIT関連商材について、小規模企業が今どのような段階にあり、どのようなセグメンテーションになるのかを把握することが極めて重要だ。400万社弱のポテンシャルは非常に魅力的だ。だが、小規模企業といっても、その中身は実にさまざま。それを把握しないまま進めると、SMBへ進出したときと同じ苦い経験を繰り返すことにもなりかねない。SMBが大企業とは異なるように、小規模企業もまたSMBとは違うということを念頭に置いておくことが非常に大切だ。
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