視点

“クラウド・ソフト”の利用が増える理由

2010/11/25 16:41

週刊BCN 2010年11月22日vol.1359掲載

 ワープロ、スプレッドシート、プレゼンテーションなどのオフィス・デスクトップと呼ばれるソフトウェア群が、クラウドサービスとして無償あるいは廉価で使えるのが当たり前になってきた。しかし、例えば、グーグルやゾーホーで提供されるワープロをマイクロソフトのワードやジャストシステムの一太郎と比べれば、その差は歴然としている。ワードや一太郎などPCデスクトップにインストールして使われるワープロのほうが、その機能性や表現力において格段にすぐれていることは誰の目にも明らかである。

 これでは、ユーザーがクラウドサービスとして提供されるオフィス・デスクトップに「安かろう、悪かろう」という印象を抱くのは当然であり、これまでのPCデスクトップ・ソフトウェアに代えてクラウドサービスを使おうという気持ちにはなれない。

 とはいえ、グーグルやゾーホーのワープロを活用する人が日々増えていることも事実である。彼らは決してマイクロソフトのワードに匹敵する機能性や表現力を期待して使っているわけではない。彼らがグーグルやゾーホーのワープロを選ぶ理由は、ワープロ機能に加えて、ファイル・ストレージ、ドキュメント共有、複数ユーザーによる同一ドキュメントの同時更新、時々刻々変化するウェブサイト参照データをドキュメント上で動的に更新するなどの機能を使えることにある。

 これらの機能は、ワープロを、ロケーションフリーかつデバイスフリーな共同作業の道具として使うことを可能にし、文書作成・配布・更新管理の生産性を飛躍的に向上させる。また、クラウドソーシングに象徴されるように、人々が組織や地域の壁を越えて協調的に働くための道具となる可能性を秘めている。さらに、グーグルは、「検索」という視点から情報の集積、分類、整理の方法を革新し、これまでのワークフローやビジネスプロセスを根底から変革することを目論んでいる。

 このように、クラウドサービスを使うべき理由を理解するには、個々のサービスの機能や品質を吟味することに拘泥せず、これまでのワークフローやビジネスプロセスを改革し、組織内外のワーカーが協調的に作業する環境を整備し、作業効率を向上させるという組織的な導入効果を考察する視点に立つことが求められる。

一般社団法人みんなのクラウド 理事 松田利夫

略歴

松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降、ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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