視点

クラウド時代のモバイルワーク2.0

2010/11/18 16:41

週刊BCN 2010年11月15日vol.1358掲載

 仕事をする環境はこの10年と少しの間で大きく様変わりした。かつてはデスク上の電話、そして大きなデスクトップパソコンを使いながら、パソコンの電子メールよりも電話でのやりとりのほうが多かったはずだ。それが一人一台のケータイ電話とノートPCに移ってきたことで、「モバイルワーク」が実現した。総務省は経産省、厚労省とともに多様な働き方への対応、通勤など移動時間の無駄の排除を狙いとした、テレワークの普及を掲げてきた。モバイルワークの時代になって、テレワークはそれまでの伸び以上に普及し、当初目標通りの2010年度20%という目標値を達成しているといわれる。

 しかしながら、ここまでの変化においては三つほど変わらない事柄がある。一つは働く場所と人。あくまでも屋内の閉鎖された環境で、会社の同僚や取引先相手の仕事が中心であったこと。二つ目はデスクの存在。キーボードを叩くためのデスクがあるのは必須であった。三つ目はデータの場所だ。ノートPCであっても、データは常に手元のパソコンに格納しているケースが大半であった。

 ところが、クラウドが出現し、モバイル環境が激変したことで、前述の三つは大きな転換期を迎えているのだ。働く場所は衆人環視のカフェや電車の中となり、取引先とも限らないネット上の協業者と仕事をするソーシャルな時代になった。タブレットデバイスの出現によって、デスクで仕事をすることが必然ではなくなった。クラウド上にアプリケーションとデータが置いてあるので、手元にはほぼ何ももたなくても安心して仕事ができる環境となった。すなわち、「モバイルワーク2.0=クラウドワーク」が実現したのである。

 デスクトップPCは10億台の市場で、飽和傾向にある。一方、モバイルデバイスは2010年中に50億台を超え、依然として増加傾向にある。わが国でも3年後にはスマートフォンの割合が50%になるといわれている。にもかかわらず、ほとんどのエンタープライズアプリケーションは、依然として「モバイルで“も”使えます」程度にしか位置づけられておらず、モバイルワーク2.0への対応が大きく遅れている感は否めない。Androidを搭載した多様性のあるモバイルデバイスが出現し、さらに高速低遅延なLTE(FTTHの無線版)による通信環境が登場するなか、モバイルでの利用を前提にしたITのあり方を真剣に模索する時期にきているのではないか、と思えてならない。モバイルへの挑戦的な取り組みが、日本のITを新たなステージに引き上げると信じている。
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