視点

「クラウドものづくり」を開始せよ

2010/10/28 16:41

週刊BCN 2010年10月25日vol.1355掲載

 現存する最古の「国産計算機」が今夏、北九州市に寄贈された。最大8ケタまで計算が可能な「自動算盤(そろばん)」だ。「日露戦争」前の1902年、発明家の矢頭良一氏が開発している。この計算機の構想段階には、文豪・森鴎外に販売協力を依頼したという逸話が残るほどの歴史的産物だ。

 この計算機について検索すると、いろいろわかってきた。値段は現在の価格に換算して600万円。矢頭氏は「人を雇って計算したほうが実用的」といい、今でいうコンピュータのビジネスのように大量に作って売ることは眼中になく、航空機エンジンの開発資金を得るためだったようだ。

 この後に続くオフィスコンピュータ(オフコン)やパソコン、サーバーなど演算機能搭載のIT機器の原点が、この計算機かどうかはわからない。だが、ITにおいても「日本のものづくり」が世界に存在感を示していたのは間違いない。 しかし、今は状況が異なる。こうした物理的なシステムを「所有せず」、インターネット経由で「利用する」ことで、高度なコンピュータを使うことができる時代になった。すなわち、「クラウドコンピューティング」の到来だ。

 インターネットの歴史を繙くと、情報工学者のJ・C・R・リックライダー氏がコンセプトを作り上げ、米国の大学内で接続・利用されたのが原点。これを広く利用できることを検証したのが、軍事利用だといわれている。残念ながら、ネット技術に関しては、日本は今でも米国の先進技術の後塵を拝し、利用効率を上げて商品化するための研究を行っているにすぎない。

 米国では、クラウド技術の一つとして、クラウド基盤を構築するオープンソース・ソフトウェア「Eucalyptus(ユーカリプタス)」の利用がアメリカ航空宇宙局(NASA)まで拡大。この利用が拡大の兆しを見せている。さまざまなパブリッククラウドのサービスのAPIと互換性をもち、クラウド利用を促進する〝起爆剤〟になるとみられ、注目が集まっている。

 日本のITベンダーは、これまで実現できなかった夢を追い求めている。「日本発のITで世界進出する」ことだ。その技術的な柱になるのがクラウドである。高価な基盤で高価なサービスなら、どのベンダーにも提供できるだろう。だが、世界の競合ベンダーに打ち勝つには、クラウド技術はもとより、インターネット技術に極限まで磨きをかけ、日本の10分の1という価格要求のある中国など東アジアでも受け入れられるサービスをつくり上げなければ、夢の実現は遠い。
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