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<きまぐれクラウド観察記 第3回>クラウドで歴史的転換点に立つ日本の情報産業――SaaSパートナーズ協会 専務理事 松田利夫

2010/10/05 16:04

 第3回目は、アメリカ国立標準技術研究所(NIST: National Institute of Standards and Technology)が定義するクラウドの用語(SaaS、PaaS、IaaS)について解説するほか、流通モデルの変革の必要性に関するさわりを述べる。

 クラウドの解釈については巷間いろいろな議論がなされてきたが、最近ではアメリカ国立標準技術研究所(NIST: National Institute of Standards and Technology)による定義に準じた解釈をとる例が多く見られる。この定義は、一般にクラウドと呼ばれる各種サービスの現状をよく反映しており、最大公約数的なクラウドの解釈と捉えていいだろう。

 そこで、今後の参考とするために、“The NIST Definition of Cloud Computing”(2009年10月7日付第15版)の中から、“Service Models”の部分を抜粋し、以下、3つのサービス・モデルを私の勝手訳でご紹介する。

Software as a Service(SaaS)

 ユーザーが利用するのはクラウド基盤上で実行されるサービス・プロバイダのアプリケーションである。アプリケーションへアクセスするには、ウェブ・ブラウザやシンクライアント・インターフェース機能等を備えたクライアント・デバイスを利用する。ユーザーが、ネットワーク、サーバー、オペレーティング・システム、ストレージ等のクラウド基盤を管理したり、制御したりすることはできない。ユーザーによる管理や制御が許されたとしても、せいぜい、個々のアプリケーションごとに必要となるユーザー特有の設定を行うことができる程度である。

Platform as a Service(PaaS)

 サービス・プロバイダにより提供されるプログラミング言語や開発ツールを使ってユーザー自身が開発した、あるいは第三者が開発したアプリケーションを、サービス・プロバイダが管理、運用するクラウド基盤上にインストールして利用することができる。ユーザーが、ネットワーク、サーバー、オペレーティング・システム、ストレージ等のクラウド基盤を管理したり、制御したりすることはできない。ユーザーは、自らインストールしたアプリケーションそのものや、そのアプリケーションのホスティング環境の構成を管理、制御することができる。

Infrastructure as a Service(IaaS)

 ユーザーが、プロセッサ、ストレージ、ネットワーク等の基本的なコンピューティング資源を確保し、そこにオペレーティング・システムやアプリケーション等の任意のソフトウェアをインストールし、実行することができる。ユーザーは、クラウド基盤を管理、制御することはできないが、オペレーティング・システム、ストレージ、インストールしたアプリケーション、そして、限定的ではあるが、ファイアウォール等の一部のネットワーク機能を管理、制御することができる。

 この3つのサービス・モデルに、これらのサービスを利用して「技術的価値」を付加し、新たなサービスを創造する“クラウド・インテグレーター”と、ユーザーのビジネス・プロセスに最適なサービスを取捨選択し、その効果的な導入を支援するなど「サービス利用価値」を高める“クラウド・ブローカー”を加え、三つのサービス・モデルとの相互関係を直感的に理解できるよう示したものが次の図である。


 この図をご覧になりながら、

・“IaaSプロバイダ”は、サーバー・ハードウェア、基本ソフトウェアのベンダー
・“PaaSプロバイダ”は、ソフトウェア開発用ユーティリティやデータベースなどのベンダー
・“SaaSプロバイダ”は、アプリケーション・パッケージ・ベンダー
・“クラウド・インテグレーター”は、もちろんシステム・インテグレーター
・“クラウド・ブローカー”は、情報機器販社、税理士、中小企業診断士

 などと対応づけて考えれば、それぞれのサービス・プロバイダの意味するところは容易に理解できるだろう。しかし、この対応づけは、これまで情報産業で主要な役割を担ってきたこれらの事業者たちに、今後も同じような事業機会が約束されることを意味するものではない。

 「アトム」の流通である物流に、オフラインのエンジニアリング作業を技術的付加価値として加えた従来の情報産業構造から、「ビット」の流通であるネットワーク配信により、ソフトウェア機能をオンラインのサービスとして提供する新しい情報産業構造への移行を迫られるとき、従来のアトムの流通モデルで担われてきた役割の多くが、そのままの形態ではビットの流通モデルに対応できないことは、もはや誰の目にも明らかである。これまで情報産業に関わってきたすべての事業者が、新たなサービス指向の産業構造に適応できるよう自らを変えることが求められている。私たちは、今、情報産業構造の歴史的な転換点に立たされているのである。

次回に続く

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BCN Bizline編集部
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