視点

地デジ全面移行は本当に実現するのか

2010/09/02 16:41

週刊BCN 2010年08月30日vol.1347掲載

 来年7月24日に予定されている地上波テレビの全面デジタル化(地デジ化)まで残り期間が1年を切ったことをきっかけに、このところ、地デジ化をめぐるさまざまな動きが目立ってきている。

 7月4日には、「全国一斉地デジ化テスト」と銘打った、アナログ停波時を想定した広報スポット放送が、午後5時59分から一分間、全国のNHK・民放各局を通じて流されている。また、7月24日からは、アナログ放送が「レターボックス」化され、上下の「黒帯」部分では、デジタル対応を勧誘する各種メッセージが流されている(認知心理学的にみて興味深いので余談として記すのだが、非日常的な地震情報等とは異なり、日々流されているこの種の勧誘メッセージにはほとんど視線が向かず、訴求効果は薄いとの感を筆者は抱いているのだが、読者諸氏はいかがであろうか)。

 来年7月時点での地デジ化達成については、推進者側は、総務省がここ数年実施してきている「地上デジタルテレビ放送に関する浸透度調査」の数値をもとに予定通りに決行するメドがついたとしている一方、7月17日、マスメディア界に関係の深い有識者の記者会見の席上では、総務省による上記数値は、さまざまな留保条件が付されるべき「甘い」数値であるとして、地デジ化全面移行の延期が提言されている。

 この提言内容や、他の諸資料を勘案してみた時、筆者は、予定通りの全面移行は難しいと考える。しかし、もとよりここで行司役をやっても詮ないことであり、当事者が実態を真摯に検証し、最善の方途を案出することを期待したい。

 いずれにせよ、地デジ化の歩みを逆行させることは、今やあり得ないことだとすれば、議論の焦点は「ポスト地デジ化」問題に合わせられるべきであろう。

 地デジ化政策が打ち出された1997年当初、メリットとしてあげられたのは、

(1)放送番組の画質・音質の高忠実度化
(2)データ放送の提供
(3)双方向サービスの提供
(4)マルチ編成放送の提供
(5)ワンセグテレビの実現

 というものであった。それから十余年、その後のメディア状況の激変、それと無縁ではないテレビ事業の環境悪化のもとで、ワンセグテレビはともかく、他の(2)~(4)の事業化可能性は未だみえてきていない。

 だとすれば、地デジ化の「実」を示す途は、「アナログテレビでも何の不都合もなかった」といわれない番組を生み出すことしかないと思うのだが、その道筋がみえてこないというのが筆者の実感である。
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