定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~

<定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~>第3回 「サーバ仮想化は重要度の低い業務から」は過去の話

2010/08/03 20:29


 冒頭に述べたように、今後広く普及する兆しを見せているサーバー仮想化だが、実は比較的長い時間をかけて草の根的に受け入れられてきた技術でもある。

 黎明期には、システム開発者や企業の情報システム担当者などが。開発・テストに必要な物理サーバー台数の削減や環境配備の迅速化などを目的にサーバーを仮想化していた。その後、比較的クリティカルでない業務用途にも利用が広がり、今日ではERPなど基幹系システムでも活用が進んできている。

 こうした経緯をたどったこともあって、「中堅・中小企業にサーバーの仮想化ソリューションを訴求する際は、大企業におけるプロセスと同様にクリティカルでない業務用途から始めるべき」と考えるのが自然だ。ユーザー企業側が仮想化されたサーバー環境における運用スキルを積む必要性も考慮すると、そうしたステップを踏むほうが無難ともいえる。しかし、本当にそれがベストの選択なのだろうか?

 【図3】は冒頭に掲げたサーバー仮想化の活用状況を「サーバーの用途別」という観点からみたものである。調査対象は、冒頭グラフと同様に年商5~500億円のSMBだ。

サーバー仮想化への取り組み状況(サーバー用途別)

 この結果をみると、「部門内利用(ファイル共有、プリンタ共有)」より「基幹系業務システム」をはじめとする各種業務システムのほうが「活用または検討中」とする回答が多いことがわかる。つまり、SMBは必ずしも「サーバーの仮想化はファイル共有やプリンタ共有から始めたい」と考えているわけでないことになる。

 この理由は、先に述べたサーバー仮想化の目的を振り返れば納得できる。SMBがサーバーの仮想化に期待するのは、社内に分散したサーバー(部門内で利用するファイルサーバーやプリントサーバーなど)を統合することではなく、サーバーの安定稼働やレガシー資産を延命することだった。安定稼働や延命を望むシステムは、当然ながら重要度の高いシステムとなる。したがって、必然的にサーバー仮想化の対象となるサーバーの用途にも、【図3】が示すように重要度の高いものが含まれてくるわけだ。

 つまり、SMBにサーバー仮想化を訴求する際には、「まずはクリティカルではない用途から」という旧来のパターンに固執せず、「ユーザー企業が業務上重要であり、守りたいと考えているシステムはどれなのか」を出発点にしてアプローチしたほうが有効である可能性が高い。また、クリティカルでない用途より、重要度の高いシステムのほうが、ユーザー企業側の予算確保という観点からも有利といえる。

 今回取り上げた「サーバー仮想化」は、ある一つの事柄を示す良い例だ。「大企業向けに受け入れられたソリューションが、SMBでもそうなるとは限らない」というのは、すでに周知の事実である。大企業向けソリューションのサブセットではなく、SMBのニーズをゼロベースで汲み取るアプローチの重要性は、これまでにも何度も説いている。

 しかし、サーバー仮想化のように情報システムの基盤を成すソリューションでは、また少し違った捉え方が必要だ。エディションによる多少の違いはあれ、大企業向けとSMB向けのいずれにおいても、サーバーの仮想化ソリューションを構成する各機能要素は、モノとしては同じものだ。しかし、それに期待する効果や導入の経緯には、大企業とSMBとでは大きな違いがある。

 このように、商材によっては「モノを変える」というアプローチだけでなく、「モノは同じだが提案のプロセスを変える」という観点もまた重要であることを、サーバー仮想化の動向は教えてくれる。「見せ方は同じだが、モノを変える」「モノは同じだが、見せ方を変える」といったように、「どこを変えるべきか」については、柔軟な発想をもっておくことが大切だ。

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ノークリサーチ=http://www.norkresearch.co.jp/