視点
精神疾患という労務リスク
2010/07/01 16:41
週刊BCN 2010年06月28日vol.1339掲載
厚生労働省の自殺・うつ病等対策プロジェクトチームも、職場の健康診断にメンタルヘルス(精神衛生)のチェック項目を盛り込むなどの対策案を5月末にまとめた。職場におけるメンタルヘルス対策の充実や、精神疾患の患者に対する訪問支援などを柱としている。国を挙げてのうつ病対策が本格的に動き出したといえる。厚生労働省によると、09年の自殺者数は3万2845人で12年連続で3万人を超えた。このうちの2~3割が、うつ病を原因するものともいわれている。
最近は、うつ病による自殺が労災認定されるケースも多くなってきている。5月には、名古屋高裁で、市職員の自殺が上司によるパワーハラスメントがその原因として認定された。公務外災害として訴えを棄却した一審・名古屋地裁判決を取り消し、公務災害と認めたのだ。
長時間労働が精神疾患に結びつくという因果関係は、ほぼ立証されており、4月1日施行の改正労働基準法で60時間を超える時間外労働に対する割増率が5割以上の率とする改正が行われた(ただし、中小企業は当分の間、猶予措置)のは、長時間労働対策の一つである。
もう一つ、精神疾患の原因として激増しているのが、職場におけるパワーハラスメントだ。09年度の労働相談件数は24万7302件にのぼり、過去最高を更新した。相談内容のなかで、「いじめ・嫌がらせ」は12.7%(0.7ポイント増)で、2年ぶりに過去最多を更新している。
精神疾患は、会社にとってもリスクとなる。戦力が失われるだけでなく、労災認定されると、労災でカバーされない損害に関して会社が責任を負うことになるからだ。不幸にも自殺にまで至るケースでは、慰謝料2000万円程度は会社負担となり、労災でカバーされない逸失利益については、会社が責任を負うことになる。つまり、死亡事故が起きると、会社は5000万円以上の負担を強いられることになるわけだ。職場におけるメンタルヘルス対策や、快適な人間関係構築についての本格的な対策が会社に求められる時代になってきたといえる。
精神疾患という労務関連の新しいリスク対策を講じなければ、一発で倒産という最悪の事態を招きかねない。
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