定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~
<定石を再考する~調査データの裏に見えるSMBの実態~>第2回 流通が整えばSaaSは普及する……とは限らない
2010/07/01 20:29
ここで、ユーザー企業への調査結果を見てみよう。以下のグラフは、年商500億円未満のSMBに対して、「SaaS/クラウドを活用するうえで望ましい契約形態」をたずねた結果である。要は「SaaS/クラウドを活用する際の窓口として最も望ましいのはどれか?」という問いに対するユーザー企業の回答といっていい。
この結果を見ると、サービス提供者とユーザ企業が個別に直接契約する場合と、既存の販社/SIerを含む何らかの業者が間に入る場合とは、おおむね4対6。ユーザー企業が何らかの仲介役を望んでいるのか、いないのかは、半々に近い状態ということだ。
もちろん、既存の販社やSIerがSaaSを取り扱う際、利用ユーザー数に応じた課金・請求処理などをサポートする仕組みなどが不可欠だ。だが、ユーザー企業に対する調査結果を見る限り、「仲介役を担う売り手の不在がSaaS普及を阻害する主たる要因であり、それを解消すればSaaSはもっと普及する」という主張を裏付けてはいない。この主張は、初期のSaaSにおける「流通面での中抜き」の主張に対する反動ともいえる。しかし反動が強すぎて、もう一方の論へと振れ過ぎてしまっているのだ。
SaaSはあくまで情報処理システムを構築・運用するための手段の一つにすぎない。ユーザー企業が求めているのは、個々の業務を支援するソリューションであり、その実現手段が社内運用とSaaSのいずれであるかは、ユーザー企業の現状やソリューションが目指す目的/効果によって大きく異なってくる。
会計アプリケーションを例にとってみよう。業務分野は同じであっても、「弥生会計」のように店頭販売を主体とするものもあれば、「ネットde会計」のように商工会議所を通じて普及したSaaSもある。あるいは「勘定奉行」のように、販社やSIerの手によってユーザー企業に届けられているものもある。
いずれも「パッケージだから」「SaaSだから」「間接販売だから」という理由で流通面の整備を進めたわけではないはずだ。個々の商材が持つ特性やユーザー企業を取り巻く環境などを多角的に捉えて検討を重ねた結果、今日の姿へと辿りついたはずである。
つまり、「SaaSだから」という理由だけで総花的に多数のサービスをかき集めたり、仲介役となる販社・SIerを無理に当てはめたりしても、本当の解決にはならないのだ。「SaaS」という“手段”の視点で一つに括ってしまわずに、個々のソリューション(商材)をどのように届けるべきか、という観点で丁寧に検討することが大切だ。
「SaaSだから流通の仕組みが必要」「SaaSだから売り手が必要」という手段を基点とした切り口にとどまっている限り、ユーザー企業が求めるソリューションの提供はできない。逆説的ではあるが、「SaaSを普及させるためには、それがSaaSであるという意識をいったん捨てること」が大切なのではないだろうか。
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