視点

コンピュータ技術者の平均寿命を延ばす法

2010/05/06 16:41

週刊BCN 2010年05月03日vol.1332掲載

 個人のパソコンを会社へ持ってくるな、会社のネットワークに個人所有のコンピュータを接続するな、社内のメールを社外へと転送するな、会社の書類をフラッシュメモリに入れて不用意に持ち歩くな等々、規則が増えてきている。ウイルスなどの感染を予防し、情報の漏えいや犯罪を防ぎ、社内のコンピュータシステムを健全に保安するためだとか。

 結論をいえば、ザル法であろう。コンピュータの形態は多様化している。スマートフォンに代表されるように、携帯電話の高機能化が進み、いまやパソコンをしのぐほどに成長している。仕事のスケジュールを個人のスマートフォンで管理しているビジネスマンが多いはずである。それもWi-Fi接続でクラウドからプッシュしてもらう人が大半であろう。今度は会社への携帯電話の持ち込みも禁止するのだろうか。

 京都産業大学のコンピュータ理工学部では、入学してくる学生たちそれぞれが個人でノート型のパソコンを所有し、それを大学へ持ってきて、学内ネットワークに接続し、講義を受けたり、実験をしたり、研究をしたりする。家庭でも、大学でも、時間と場所を選ばずにコンピュータに触れながら勉学することを大いに奨励している。

 コンピュータ処理がネットワークを介してサービスの形態で提供される時代になってきたのだから、この時代に適合する学生を輩出したいと願って、学生が使うコンピュータを大学側で設備するのを2008年からやめた。用意したのは、強力なサーバー群、高速なネットワークの接続口、電源コンセント、そして、厳重な認証システムである。

 ネットブート(シンクライアント)方式で、OSまでも学生たちへと提供する環境を整えている。学生個人のパソコンの中に、OSが入っていなくとも、別のOSが入っていても、授業で必要なアプリケーションがインストールされていなくとも、サーバーからネットワークを介して提供する。

 この環境で育った学生たちが就職すると、個人所有のコンピュータをどんどん会社へ持ち込んで、当然のように社内ネットワークに接続するはずである。社員のコンピュータを個人所有のものに切り替える準備をしたほうがいい。コンピュータシステムの新陳代謝の面からも有利である。

 人の平均寿命の延びは、上下水道・電気・ガスなどのインフラの普及率と正の相関を示す。高度な医療によって寿命が延びたのではない。人が集うところに何が必要なのか。けっして冒頭の規則などでないことは明らかである。
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