視点

フェアユースは日本に適合するか

2009/09/18 16:41

週刊BCN 2009年09月21日vol.1301掲載

 著作権法における権利制限の一般規定(いわゆる「日本版フェアユース規定」)の導入に関して、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で8月末、関係団体へのヒアリングが行われた。私は、ソフトウェア関連団体の代表として出席し、意見を述べた。

 日本の著作権法では、「私的使用目的の複製」など具体的に規定されており、著作権が制限される範囲は明確である。一方、明確であるが故に形式的に著作権侵害になることから、革新的な著作物利用ビジネスの創出を萎縮させているという主張がある。そのため、著作権が制限される基本的な条件を規定する「権利制限の一般規定」を定め、ビジネスの自由度を高めるべきではないかという議論がなされている。

 このことについてACCSは会員企業からアンケートを採り、他のソフトウェアに関連する団体からも意見を聴いて意見書をまとめた。

 ソフトウェア関連権利者としては、一般規定の導入には原則反対である。なぜなら、(1)直近の著作権法改正により新規ビジネスを阻害するとされる問題には手当てがなされており、一般規定を設けてまで解決すべき問題は存在しないと認識しており、(2)将来、発現する「かもしれない」ビジネスのために、権利者にとって不利益となる法制度を現時点で整備する必要はなく、(3)ビジネスチャンスの拡大よりも権利侵害のグレー領域を拡大する恐れが大きいと予測され、(4)居直り侵害者への対策など権利者の正当な利益を保護するための制度が十分ではないからだ。また、フェアユースを導入している米国などの法制度は、そもそも根本的に日本のものと異なる。例えば米国は判例法系であり、訴訟で紛争を解決し判例を積み重ねることで規範が生じる。一方、日本では、実際に法律になっているものを紛争解決の礎とする成文法系である。米国型のフェアユースを採用することは、異なる法体系の理論を持ち込むことになり、法の運用に混乱を生じる。さらに、一般規定の条件を満たす利用かどうかを裁判所の判断に仰ぐといっても、訴訟自体に抵抗感の強い日本で、どれほど利用されるのかも疑問である。

 この一般規定導入の是非に関する議論は、著作権法そのものを見直すための議論にもなり得る。現在の知識・創造社会において、「情報」に対価を払うとはどういうことか。一般規定導入の是非を通じて、真剣に考えてほしい。
 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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