視点
言語としてのコンピュータ
2009/08/10 16:41
週刊BCN 2009年08月10日vol.1296掲載
最近ではITエンジニアというのもある。直訳すれば、「情報技術の技術者」。わかったようでわからない。本紙にも頻繁に登場するSIer(エスアイアー:システムインテグレーションをする者)とは、はたして人なのか組織なのか。こうなってくると、同じ土俵の上に乗せて、その仕事の本質を云々し難くなる。
そんなときは、年老いた人や幼い子どもに対して、コンピュータに携わる技術者の仕事を説明してみるといい。相手にはコンピュータに関するバイアスがかかっておらず、専門用語が通用しない。どうしても平易な言葉で仕事の本質を語らなければならない。すると、話す側の底意が露呈してくるのである。
30年ほど前に大学院を出て、ソフトウェアを開発する会社に就職した。コンピュータのコの字も知らない両親や祖母に向かって、これから自分がこなす仕事を説明しなければならなかった。苦しまぎれに考え出した言葉が「この世を数に変えてゆく仕事」である。「そんな大層なことができるのかね」と返された。
この世のインフラと化してしまったコンピュータは、数(正確には2進数)しかわからない。高度なプログラミング言語を用いたとしても、煎じ詰めてみれば、0と1の羅列に翻訳している。Webページを開くと文字列や画像や映像が出てくるが、文字列は文字コードの一次元配列であり、画像は画素(色)の二次元配列であるピクセルマップ、映像はピクセルマップのシーケンス、つまり、色の三次元配列である。結局のところ、2進数の連なりでしかない。
お馴染みのURLはIPアドレスとファイルアドレスなどの数に変換して処理されている。Webアプリケーションでさえ、ブラウザから入力されたものをSQLなどのデータベースの問い合わせ言語に変換し、戻ってきた結果をHTMLなどのページを記述するための言語に変換して、ブラウザ上に情報を出力している。
ことほど左様に、コンピュータ技術者の仕事は言語変換系とみなせる。すべては2進数で表現された記号処理系。まさに「言語としてのコンピュータ」ではないのか。
- 1