視点

年金制度の末期症状

2009/06/29 16:41

週刊BCN 2009年06月29日vol.1290掲載

 厚生労働省が、年金制度の試算を発表した。例として、現在40歳のモデル世帯が将来的に受け取る年金額は、現役男性の所得の50%程度になるという試算である。この試算の詳しい計算根拠は示されていないし、今後も示されることはないと思われる。とはいえ、試算の前提となる数値は一部公表されている。まず、モデル世帯だが、サラリーマン生活40年の夫に40年専業主婦として連れ添った妻である。いまどきあり得ないケースだ。

 さらに、年金には過去からの余剰積立金が150兆円以上あるといわれている。これを50年かけて取り崩しながら運営していくわけだが、想定の運用利回りが4.1%とされているのは驚きだ。昨今の金融情勢からみて、4.1%の運用ができるのであれば、厚生労働省に預金したいと考えるのは私だけであろうか?


 また、国民年金の納付率が80%に改善されるという見込みが、試算の前提である。その思惑とは裏腹に、平成19年度の納付率は、63.9%。平成20年度の納付率はさらに60%程度にまで落ち込み、過去最低となる見込みである。


 そもそも、この納付率自体も怪しい数字だ。国民年金制度は、平成に入って数多くの保険料の免除制度を作ってきた。大学生の納付特例、30歳未満のいわゆるフリーターの納付特例、国民年金保険料は全額の免除制度しかなかったものを、4分の1免除、2分の1免除、4分の3免除という多段階の免除制度まで創設し、制度も複雑になってしまった。


 これらの免除の対象者は500万人にのぼり、納付率の計算には入っていない。免除者を入れて本来納めるべき人と納めている人という観点から納付率を計算すると、納付率は50%を切る数字になる。このような前提条件の下での試算が果たして信頼性があるのか。


 現在の年金制度は、現役世代が引退世代の年金の支払いに当てるお金を作る世代間扶養の仕組みで成り立っている。保険料のアップを抑制する観点から、国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げるという改正も行われた。


 しかし、超高齢化社会は信じられないスピードで到来する。2050年には15歳以上65歳未満の現役世代51%に対して、65歳以上の人口が40%となるという推計値もある。ほぼ1人で1人を支えるという時代に突入することを前提にすると、現在の年金制度で果たして間に合うのか。根本的な制度改革を行わなければ制度崩壊は確実と思われる。

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