IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>92.「IT経営力大賞」シリーズ・第二弾 松栄テクノサービス(下)

2009/05/18 16:40

週刊BCN 2009年05月18日vol.1284掲載

保守メンテ最適化でコスト削減

 工作機械用のロボット修理を専門とする松栄テクノサービス。ユーザー企業からの修理依頼の第一報は、まず電話で入ってくる。同社が構築しようとしているデータベース(DB)は、ロボットに割り振った固有の番号から過去の修理履歴を参照し、必要な部品の手配や故障内容に応じた修理要員の手配を効率的に行うものだ。DBは部品構成や周辺機器の状況など多岐にわたるため、市販品の管理ソフトではなく、独自に開発した。

 開発に当たって、紆余曲折がなかったわけではない。例えば、これまでサービス担当者は、修理が完了すると5枚複写の紙の作業報告書を作成していた。DBを運用するためには、まずこの報告書をデジタル化する必要がある。報告書は作業現場でノートPCを使って作成するので、“簡便性”を重視しなければならないが、要件定義に「作業報告書は簡便に入力できること」と記しただけでは、ITベンダーに要件を明確に伝えたことにはならない。松栄テクノサービスの社員も具体的なイメージが湧かず、要件定義の作業はなかなか前に進まなくなった。静的な画面サンプルを用意しても、確定には至らない。そこで、実際に動く入力画面を見ながら要件を確定していく「新領域の要件定義プログラミング」(三宅順之ITC)の手法を実践し、解決に結びつけた。

 さらに、システムが具体化するにつれ、「ここまでできれば、さらにいいものができるはず」(松栄テクノサービスの吉澤彬社長)という熱い思いに押される形で、RFP(提案依頼書)に記載された機能要件の変更や追加を行った。三宅ITCは、「DBをつくるのが当初の目的だったはずだが、IT化の範囲の境界線が途中で拡大してしまった」と指摘。ベンダー側の理解に時間がかかったこともあり、結果として松栄テクノサービスが求めるすべての機能が稼働するのは、09年5月にずれ込む見込みである。

 08年秋の“トヨタショック”で事業環境は激変。当初、予測もしなかった深刻な事態が起きている。こうしたなか、DBに基づいて故障頻度を予測し、最小限の部品交換や修理対応でロボットを維持管理するという“攻めのサービス提案”の重要性が増す。過剰保守(オーバーメンテナンス)を防ぎ、ロボットにかかるコストを少しでも削りたいというニーズが顧客企業に高まってくればくるほど、同社の価値は高まる。紆余曲折を経たDBの開発だったが、今では突然の大不況に勝ち残るための「強力な武器になる」(吉澤社長)と期待を込める。DBの精度を高め、徹底的に分析することで、保守サービスの最適化をユーザー企業に提案。これにより顧客の満足度を高めて、“ピンチをチャンスに変える”戦略に打って出る。
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