視点

国際化する著作権侵害、対策は急務

2009/02/16 16:41

週刊BCN 2009年02月16日vol.1272掲載

 著作権法制について検討している文化審議会著作権分科会の2008年度の報告書がまとまった。特筆すべきは、違法配信サイトなどからダウンロードし複製する行為や海賊版から複製する行為を、著作権法30条で「私的使用目的での複製」として権利が制限されている範囲から除外し違法行為とすることだ。音楽や映画などの録音録画(複製)については法改正が適当と結論づけられ、それ以外については、プログラムの著作物のうち特にゲームソフトでは録音録画物と同様の措置を講ずる必要があると認識されたが、ビジネスソフトも含めたプログラムの著作物全体としては、正規ビジネスへの影響の程度などについて、なお検討が必要とされ継続審議となった。

 この件について、著作権分科会において、委員であるACCSの辻本理事長が、「昨今のインターネット上での違法な著作物の流通による被害は深刻化しており、このことはデジタル化されたコンテンツ全般に関わる重大事である」と強く指摘したうえで、ACCSではゲームソフトだけでなくビジネスソフトも被害実態が大きいと考えており、継続した検討と早期解決を求めるとの発言がなされた。また、著作権分科会下の国際小委員会には筆者が委員として参加しているが、課題として、特に国境を越えた権利侵害対策の実効性を確保できる対応が最重要で、優先的に検討すべきだと訴えてきた。


 現在、ファイル共有ソフトや動画投稿サイトを悪用した著作権侵害が横行し、その被害は正規ビジネスにとって脅威となっている。インターネットを通じた著作権侵害に国境はないことから、その対策は簡単ではない。国をまたいだ対策は、法制度については一定の情報が入手できるものの、対策実務に関わる手続きについては情報が不足している。ACCSが06年にイタリアで刑事告訴したときはインターネット上の侵害事件ではなかったが、現地の警察機構やエンフォースメント(法執行)に関する著作権法制度をゼロから調べながら対応しなければならず、多大な労力を要したものである。

 
今後、国際化する著作権侵害から日本のコンテンツを守り、フェアな正規ビジネスを確立するには、権利保護技術、契約、エンフォースメントがいつでも可能となるための土台作りが急務である。ACCSは、ゲームソフト、ビジネスソフトはもちろんデジタルコンテンツの権利保護に関する経験には一日の長がある。権利者の方には、ぜひ積極的な関わりをお願いしたい。


 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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