視点

経済危機だからこそ“雲の向こう”

2008/11/24 16:41

週刊BCN 2008年11月24日vol.1261掲載

 内閣府の調査によると、日本の実質国内総生産(GDP)は7-9月期で年率0.4%減少している。世界的な金融不安の影響で国内の「景気後退局面」が鮮明化し、長期化の様相を呈してきた。  複数のITベンダー幹部はこの事態を「ムード不況」と称し、IT市場全体を戒める見解を口にし始めた。先行きを不安視するが故に資金が潤沢な企業ですら、差し迫る重要な「戦略的IT投資」をも凍結するケースが相次ぐ。こうした“風評被害”を受けて、IT需要がますます減速する可能性があると心配しているのだ。

 こうしたなか、窮状に喘ぐIT業界に一石を投じそうな調査結果が発表された。米国の調査会社IDCによると、「世界的な経済危機が“追い風”」となり「クラウド・サービス(インターネットを介して利用できるサービス)」が急成長すると予測する。


 「クラウド・サービス」を利用すれば「ベストプラクティス」なシステムを“雲の向こう側”から安価に調達・利用できる。ITのコスト低減を実現しつつ投資の継続も図りたい企業経営陣の視線が、そこへ向かうのも無理ない。特に資金力が乏しい中堅・中小企業(SMB)には魅力だろう。SMBは大企業以上に競争が厳しい。他社との差別化を鮮明に打ち出して生き残るためにITは欠かせない武器だ。ハードはリース契約などで調達すれば初期投資が少なくてすむ。ソフトもSaaSのように「従量課金制」で購入できれば、投資効果を短期間にあげることができる。


 国内のIT業界は2002年頃に「ITバブル崩壊」を契機として、強みを生かすため事業の「選択と集中」を行い、当時多発した「不採算案件」を発生させないように構造改革を断行した。表面上は膿を出して、地に足のついた経営基盤が築かれているはずだ。2008年9月に中間決算を発表した株式上場ITベンダーの業績は、大半が減収減益になった。しかし、ITバブル崩壊時のような赤字決算を計上したITベンダーは減少している。


 ユーザー企業の視線はITを「所有から利用する」意識へと移っている。「経済危機」が09年中に終息するとは考えにくい。今や、数多くのITベンダーからSaaSや仮想化技術などを用いた安価で運用効率を高められる「新サービス」が登場している。こうした動きと手を組む相手の研究を怠らず、次世代のITサービスを早急に構築すべきである。

  • 1