視点
金融工学は所詮、無力なのか
2008/03/31 16:41
週刊BCN 2008年03月31日vol.1229掲載
サブプライムローンは米国の信用度の低い人向け住宅ローンで、焦げ付きリスクが高いことは初めから分かっていたはずである。そのローン債権を証券化して販売すれば、ハイリスク、ハイリターンの金融商品になる。それが世界に販売され、危機の芽を育てた。
米国は金融工学、リスクマネジメントで最先端を走っているといわれていた。日本の金融機関はその金融テクノロジーで大きく水をあけられ、国際競争力がないともいわれる。
金融は門外漢だからよく分からないが、ITを駆使した技術だと聞く。金融機関は多くの数学系学部出身の社員を雇用し、新金融商品を開発してきた。
それなのに、いま米国発世界金融危機が起きようとしている。金融工学やリスクマネジメントなどの手法は、今回の危機を回避する術を持っていなかったのだろうか。
「米国における住宅価格の高騰はすでにバブルだ。いつはじけても不思議ではない」という指摘が数年前からあった。金融工学などは、こうしたリスクを当然組み込んでいたと思われる。バブルの崩壊という現象は90年代の日本で起きたし、世界各地で100年以上も前から経験している。にもかかわらず、サブプライムで金融機関同士が疑心暗鬼に陥り、過去の経験が生かされているようには思えない。世界の不良債権額は100兆ドルにのぼるという見方もある。過去のバブル崩壊と同じ図式がより大規模に繰り返されている。
金融テクノロジーはなぜこうした危機を回避できなかったのか、解説はあまり聞いたことがない。右肩上がりの市場でいち早くさや取りをするのが金融テクノロジーだとすれば、たいしたハイテクではない。リスク管理手法が組み込まれているからこそ、いったん相場が崩れ始めたら、歯止めが利かなくなる、という人がいるかもしれない。
かつてブラックマンデーの株価急落が起きた時、デイトレーダーが何人も自殺に追い込まれたことがある。この時もITを使った株の自動売買が株価の乱高下を引き起こしたといわれた。
人間の思惑や欲望を数値化し、市場の未来を予想し、市場の安定を図ることは現在のITでは所詮無理なのだろうか。
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