ITから社会を映すNEWSを追う
<ITから社会を映すNEWSを追う>中央省庁のTCO削減成績は
2008/03/31 16:04
週刊BCN 2008年03月31日vol.1229掲載
優等生は金融庁と総務省だが…
差し引きすれば50億円の増額
会計検査院がまとめた「国会からの検査要請事項に関する報告」によると、中央省庁が2006年4月から12月までに行った1件当り500万円以上の調達で、随意契約率は件数で56.5%、金額で62.2%だった。また支払い金額300万円以上のIT調達における随意契約は、件数で80.8%、金額で96.3%と、依然として高水準にある。一方、06年度に18の中央省庁が一般会計で執行した情報処理費は465億円で、当初予算より5.9%減少、金融庁のように当初予算3億4000万円を競争入札で770万円に圧縮したケースもあった。競争入札を行えば政府機関の歳出は確実に減らせるということだ。(佃均(ITジャーナリスト)●取材/文)06年4月から12月までに中央省庁が実施した1件当り500万円以上の調達は14万1990件、金額は2兆2123億円。このうち随意契約は8万294件(56.5%)で1兆3770億円(62.2%)だった。随意契約のうち企画競争を経ないものは6万7704件(47.7%)、1兆2761億円(57.7%)に達している。
情報システムについて詳細が分かるのは04年度の数値。発注金額が1件100万円以上の案件は6475件で4773億500万円、うち1件300万円以上の案件は2873件(44.4%)で4732億100万円(99.1%)となっている。契約方式をみると随意契約が2322件(80.8%)で4558億5100万円(96.3%)と、随意契約率が極端に高い。
この数値について会計検査院は、「国の情報システム関係の契約(IT調達)の全体像は国の決算関係書類から直ちに把握することはできない」としており、各省庁から提出された資料をもとにした集計であることを示唆している。外郭団体を経由した調達や公共工事、特別会計分の契約方式は不明なので、実態での随意契約(あるいは不明朗な契約)率はもっと高い可能性がある。
■競争入札=調達コスト削減だが
IT調達についてもう少し詳しく見ると、各省庁の内部部局が所管している保守・運用契約492件では、単価契約と総合評価方式による一般競争契約と指名競争契約の合計は61件(12.4%)に過ぎない。随意契約は431件(87.6%)だが、指名競争入札27件のうち17件は応札会社が1社なので、実質的な随意契約率は91.1%にはね上がる。政府が「レガシー」と名指しして最適化を求めた77業務・36システムについては、04年度に支払った金額は3458億円、うちNTTデータが1576億円(45.6%)を占める。また上位5社が全体の65.4%を占めており、競争条件が整っているとはいえない。技術的な特殊性や業務ノウハウの継続性などからやむを得ないケースもあるだろうが、小泉政権下で示された「総合評価方式による競争入札」の指針が浸透していないということは間違いなく言える。
これまでのやり方を大きく変えたくない守旧派または穏健派は、「最適化」できない理由をあれこれ並べ立てる。なかには例外もあるだろうが、会計検査院の報告書は「競争入札にすれば確実にIT調達コストは下がる」ことを示している。実際、同院が実施した調達では費用が30分の1に下がった事例もある。 06年度における情報処理予算では、総務省が100億9000万円で最も多かった。そこに競争入札を導入したところ、6億4600万円が削減されている。削減率は6.4%と決して高くないが、もとの金額が大きいため削減額も大きくなる。
削減率の“最優等生”は金融庁だ。自民党「e─Japan特命委員会」事務局長から金融相となった伊藤達也衆院議員が民間から6人のCIO補佐官を招聘し、仕様書を自作することからスタートした。その結果、06年度に22億3000万円を予定していた歳出が17億円に圧縮された。削減率は23.7%だ。
以下、削減率では内閣府、警察庁、厚生労働省、会計検査院、削減額では総務省、金融庁、内閣府、厚生労働省、警察庁と続く。18省庁(最高裁判所を含む)の削減額を合計すると29億1700万円で平均削減率は5.9%となる。
■削減分以上のムダ使いも発生
ところが削減率0.0%の“留年”確定組がいる。防衛省、法務省、最高裁判所だ。また厚生労働省が所管する社会保険庁のシステムは、“宙に浮いた年金”問題の解決が焦眉の的となって、脱レガシーどころか名寄せシステムの開発で増額となっている。さらに会計検査院が指摘するのは、01年度から構築が進められた電子行政システムだ。電子行政システムは大きく電子申請・手続き系と電子入札系の2系統に分けられる。電子申請・手続きはこれまでに汎用システムで1万2899、専用システムで1455の申請・手続きがカバーされ、所管省庁は延べ20省庁、システム数は41システム(汎用16、専用25)。この運用に要している年間費用は160億円を超えているにもかかわらず、利用率は0.94%に過ぎない。
電子入札系は12省庁12システムが稼動しており、工事発注や物品・役務の購入に適用されたのは04年度1442件。1件100万円以上の調達案件6475件で単純計算すると利用率22.3%と低空飛行が続いている。せっかく電子化しても、入札参加説明書の受取りや応札必要書類の提出が必要で、役所に出向かなければならない。積算書や提案書の提出が電子的手段で可となっても、紙の書類がなくなるわけではない。会計検査院の報告書は、果たして本当に必要なシステムなのか、疑問を呈したかっこうだ。
こればかりでなく、脱レガシーに要する費用にも課題が多い。刷新可能性調査に20億円、見直し方針の策定に3億円、最適化計画の策定に54億円の計78億円が04年度に支払われている。競争入札で削減されたのが29億円だから、単純計算では約50億円の歳出増。これでは国民はたまったものではない。
ズームアップ 政府予算の決定法 |
- 1