ITジュニアの群像
第70回 宇部工業高等専門学校
2008/03/24 20:45
週刊BCN 2008年03月24日vol.1228掲載
人とプログラムが役割を分担
競技に勝てるプログラムにこだわる
宇部工業高等専門学校は、第18回高専プロコンの競技部門で優勝し、文部科学大臣賞を受賞した。メンバー3人のうち1人が4年連続、もう1人が3年連続出場で、その経験とノウハウの蓄積の中から生まれた「勝つためのプログラム」と、「高度な戦術眼」が勝利の決め手となった。今回は同校のコンピュータ部の活動を紹介しつつ、メンバーの発想法や強さの秘訣をレポートする。(佐々木潔●取材/文)敗者復活から勝ち上がり18回大会競技部門を制す
宇部高専ではプロコン参加は競技部門が中心で、そのメンバーはコンピュータ部員から、というのが慣例になっている。課題・自由部門への参加はそれほど多くない。これは、同校が他の多くの高専のような情報工学科ではなく、機械系の制御情報工学科を置いていることと関係しているようだ。他校では、演習や卒業研究に関連づけて課題・自由部門のテーマを決め、エントリーするケースも多いが、宇部高専では演習や卒研自体が「制御」寄りになるからだ。
平成19年度の部員は23名でその多くが5年生と2年生。年間スケジュールとして、プロコンへの出場、高専祭への出品、中国地区コンピュータ・フェスティバル(略称・コンフェス)への出場などが組まれるが、プログラムに取り組むメンバーは少数で、むしろコンピュータを利用してCGや音楽に向かうメンバーが多く、部員のなかにはプロ級の腕前を持つCGデザイナーもいるという。ここしばらく、顧問の先生を持たない時期が続いていたらしく、江原史朗先生(制御情報工学科准教授)が顧問に就いたのは19年度から。
昨年秋に開かれた第18回大会競技部門には、木村照隆さん(制御情報工学科5年生)、新宅雅夫さん(電気工学科5年生)、杉山雄作さん(制御情報工学科2年生)の3人が出場。敗者復活戦から勝ち上がって優勝し文部科学大臣賞を授与された。主に木村さんがプログラムを書き、新宅さんがいじり回して注文を付け、杉山さんは部員を集めて後述する「入札」の練習を繰り返した。
18回大会のテーマは「石垣工務店」。石垣の石に見立てたパズルのピースを、一定時間内に石垣の形をした枠により多くはめ込んだチームが勝ちという競技内容だが、そのピースを各チームが入札(オークション)によって取得し、それを繰り返していくところに特徴があった。
参加各校は入札情報の収集と解析を行うプログラムの構築に精力を傾けたが、宇部高専のアプローチは一風変わっていた。
入札は競技者が判断してプログラムは補助に徹す
木村さんは「オークションは“人対人”の要素が大きすぎてPCには任せにくいから、どのピースをいくらで入札するかはその場の競技者の判断で決める」というやり方をとり、プログラムはその決断を補助するだけにとどめた。一方で、石を敷き詰めていくプログラムについては、ランダムにピースの組み替えをしなくともすむようなアルゴリズムを考え出し、競技の最中にぱっと見ただけで判断できるように、インターフェース(ここでは入力のしやすさと視認性)に磨きをかけた。
この3年間、木村さんと新宅さんはペアで戦い、競技部門がひたすら時間との戦いであることを知り尽くしている。「競技ではびっくりするほど時間がない。だから、競技用のプログラムには機能を詰め込まず、使い勝手優先のシンプルなものにしないと戦えない」。
オークションとは木村流にいえば「限られたリソースを奪い合うゲーム」。ところが、多くのチームは「このピースをこの金額で入手し、こう並べれば勝てるのではないか」という考え方を前提に、重武装のプログラムを組んできたようだった。
試合経過は波瀾万丈で、1回戦を突破して準決勝に進んだ14校のうち、決勝戦までコマを進めたのはわずか2校だった。宇部高専も初戦は敗れたが、これは相手校が小さいピースを取りにくるとは予想しなかったためのミス。その夜はビデオで他校の傾向を分析して入札戦術の変更を決め、敷き詰めプログラムに少し手を入れた。変更点は取りたい石ではなく取れる石を拾いまくることで、2回戦からは他を寄せつけずに勝ち上がった。新宅さんのスピーディなPC入力によるところも大きかった。同校の勝因は、端的にいえば「作りたいプログラム」よりも「勝つためのプログラム」を選んだことに尽きるだろう。
「子供の頃、魔法使いになりたかったことがプログラムに手を染めたきっかけ」という木村さんは、就職先のKSK(国際システム)でSEを目指す。新宅さんはJR東海の一員に加わるが、「本業が電気システム系統なので、プログラムを仕事にできるかどうか未定」だそうである。
プロコンでの優勝は、コンピュータ部にとって予算面での優遇に加えて、上位進出への期待というプレッシャーをもたらした。部員の半数近くを占める5年生が卒業した後の舵取りは杉山さんの手腕にかかるが、優勝によって部員募集にも弾みがつきそうだ。
「やり遂げる力」を育む部活を重視 幡中憲治校長
宇部高専は昭和37(1962)年4月、高等専門学校制度が発足したその年に国立高専第1期校12校のひとつとして開校した。いわゆる情報工学科は持たず、メカトロニクス中心の制御情報工学科を昭和63年に設置。平成4年には、実践的な経営エンジニアを育成するための経営情報学科を新たに設けている。
地域の産業との連携や共同研究にはとくに力を入れており、卒業研究テーマの2-3割が地域産業界の課題に絡んだもの。卒研のスタートも早く全学科で4年次から研究室に所属する。学校全体としてコミュニケーション能力の(とりわけ英語での)育成に積極的で、専攻科ではTOEICで400点以上を取らないと卒業できない。国際交流にも活発に取り組み、ニューキャッスル大学(豪)、東義科学大学(韓国)など海外4大学と学術交流協定を結んでおり、南米やアジアからも留学生を迎えている。
幡中校長は、「実践的な技術者の育成を掲げる高専では、課題に対して最後までやり遂げる根気強さと独創性の両面が求められるため、自ら目標を設定して努力する課外活動をとくに重視している」と語る。昨年10月のプロコン全国大会では競技部門で宇部高専が勝ち上がる様子を会場で観戦し、「プログラムの力だけでなく、その場に応じた状況判断力に優れていた」と大感激。ロボコンの陰に隠れがちだったコンピュータ部にスポットライトが当たったことを喜んだ。
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