ITジュニアの群像
第69回 電子回路組立部門で松本工高が連覇
2008/03/03 20:45
週刊BCN 2008年03月03日vol.1225掲載
第7回大会、工業高校生が7部門で競う
全国の工業高校生が一堂に会して、技術・技能を競い合う第7回「高校生ものづくりコンテスト全国大会」が2007年11月17-18日の2日間(競技は17日、表彰式は18日)、静岡県沼津市と静岡市の計3会場で開催された。ITに関連する電子回路組立部門では、長野県松本工業高等学校の小口宏之さん(電子工業科3年生)が昨年に続いて優勝し、厚生労働大臣賞を授与された。また、小口さんはBCNが主催する「ITジュニア賞2008」を2年連続で受賞した。(佐々木潔●取材/文)課題内容の再構築により難易度が引き上げられた
「高校生ものづくりコンテスト全国大会」は、全国工業高等学校長協会が主催するイベントで、7回目を迎えた今大会は、同じ沼津市で開催される第39回技能五輪国際大会との同時開催となり、日本の高校生のものづくりの大会として例年以上に注目を集めた。
大会は旋盤作業、自動車整備、電気工事、電子回路組立、化学分析、木材加工、測量の7部門で競技が行われ、全国9ブロック選出の90人と開催ブロック(静岡県)選出の10人を合わせた100人の若き技術者たちが熱い戦いを繰り広げた。
電子回路組立部門は、静岡県立沼津技術専門学校(沼津テクノカレッジ)を会場として行われた。この部門はハードウェアの組立技術だけでなく、回路設計、ソフトウェアの組み込み技術を総合的に競うのが特徴。第5回大会から「プログラムによる制御」を課題に加えたものの、「本来の組立技術が蔑ろにされている」「プログラムの優劣を競う大会になっている」という教育現場からの批判があったことを踏まえ、第7回大会では課題内容が再構築された。その結果、前年度までの採点項目であった「プログラム技術」を「制御技術」と改め、プログラムは「要求する制御仕様を満たすために電子回路に付加して活用するもの」とされ、審査も「動作するかどうか」を主眼とすることになった。
課題は競技時間中に製作する「設計製作回路」および「制御対象回路」を各自が準備したケーブルを用いて持参したコンピュータに接続し、「制御プログラム」をプログラムすることによって、目的の動作をするシステムを完成させるというもの。
システムの動作に当たっては設けられた7問のチェックポイントをクリアすることが求められた。なお、制御対象回路は大会当日に支給されるプリント基板を用いて電子回路を組み立てること、また、制御プログラムについても当日提示される課題に基づいてプログラミング(使用言語は自由)することというルールが定められた。さらに、今回からは組立課題の難易度も変更され、高校生の頂点を目指す大会にふさわしいレベルとして、「技能検定電子回路組立て作業2級」程度に引き上げられた。
競技時間についても改訂され、前年度とトータルの競技時間(4時間)に変更はなかったが、今回は競技時間内であれば「回路設計」「組立作業」「制御プログラム作成」の各作業の時間配分は、競技者の判断に委ねられた。
プログラムもハイレベル 小口さんが2連覇を達成
採点基準は100点満点のうち、制御技術が40点、組立技術が50点、その他(作業状態など)が10点。制御技術では7問の課題動作の確認とソースプログラムが、また組立技術では基本動作、ハンダ付けの状態、部品の損傷、配線・組立状態がチェックされる。
審査委員長を務めた東海大学開発工学部情報通信工学科の渡辺晴美助教授(組み込みソフトウェア開発方法論が専門)によれば、プログラミングの難易度は「学卒者を対象とする3か月間の新入社員研修程度では、とても到達できないぐらいハイレベル」というもの。こちらも組立技術に劣らず、高校生の頂点を目指すにふさわしい水準が求められた。
優勝したのは、長野県松本工業高等学校電子工業科3年生の小口宏之さんで、見事に連覇を達成した。長野県大会、北信越大会を1位で通過して全国大会に臨んだ小口さんは、「制御プログラムはすべて動作したので問題はなかったが、回路基板を製作する過程でミスがあったので、その減点の度合いでは1位を逃すかもしれない」と自分の製作過程を冷静に分析したが、結果は見事に優勝。全国大会連覇については、前回の優勝者だから勝たなければというプレッシャーを感じていた時期もあったそうだが、今大会の1か月前からは無心に立ち返り、まったく意識しなくなったそうだ。
ものづくりコンテストの出場母体となる電子工学部顧問の赤羽治先生は、「前回の優勝から1年間の間に小口君は長足の進歩を遂げた。技術的な向上もさることながら、自分で問題を発見して解決する能力の向上がめざましかった」と教え子の健闘を称えた。なお、小口さんは職業能力開発総合大学校(相模原市)へ進学する。
また、同部門の2位は静岡県立浜松城北工業高等学校電子科3年生の神谷真浩さん、3位は宮城県工業高等学校電子機械科2年生の松浦脩人さんだった。
ものづくりこそ“人づくり” 平井重臣実行委員長
第7回目を迎えた「高校生ものづくりコンテスト全国大会」は、静岡県沼津市・静岡市など3会場で開催された。静岡県では10年ほど前から「静岡県高校生技能競技大会(WAZAフェスタ)」を開催しており、今大会の平井重臣実行委員長(静岡県立浜松工業高等学校長)は、「このWAZAフェスタが全国工業高等学校長協会で評価され、ものづくりコンテスト全国大会へとつながっていった」と由来を語る。
平井委員長の持論は「ものづくりは“人づくり”である」というもの。今の子供たちは幼い頃から情報収集能力に長けているが、知識や理屈は身についても、それはわかったつもりになっているだけで、問題を発見したり解決したりする能力とは別物というのだ。
ものづくりは、自分の身体を動かし、失敗や成功という「体験」を通じて考える力を身につけることができる。これこそ“人づくり”そのものではないかというわけである。
昭和30年代半ばから40年代半ばにかけて、県立・市立の工高卒業生は日本のものづくりの根幹を支えてきた。まさに、戦後日本はものづくりで栄え、ものづくりで世界的ポジションを獲得してきたが、少子高齢化時代を迎えたことによって、再び工高卒業生の基礎的素養や技術力が高く評価され出した。
技術を身につけさせ、その技術によって立つ可能性を開くものづくりコンテストの意義はますます重くなろうとしている。
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