視点
HD-DVDはなぜ負けたか
2008/02/25 16:41
週刊BCN 2008年02月25日vol.1224掲載
(1)低容量。容量には光ディスクの構造からくる物理的容量と、圧縮技術に由来する論理的容量がある。問題は物理容量。これまで規格戦争で、容量(記録時間)が小さくて勝った例はひとつもない。ベータ1時間/VHS2時間、VHS─C20分/8ミリビデオ1時間、前回のDVD規格戦争でのソニー提案のMMCDは当初3GB/東芝・松下電器提案のSDは同5GBと、小容量は必ず負けている。HD─DVDは1層15GB・2層30GB、BDは1層25GB・2層50GBだから、初めから「勝負あった」だ。
(2)フォーマットホルダーの陥穽。デファクトを握る会社は、その栄華が永遠に続くことを願う。CDで大成功したソニーは、映像ディスクもCDの延長でいきたかった。だから、DVD規格戦争ではMMCDを提案。カセットで王国を築いたフィリップスは、デジタルカセット(DCC)を提案。VHSのビクターは、デジタルVHSを提案。これらはすべて新しい技術、新規格に負けた。一時代を画したメディアを持った会社は、必ず次世代には負ける。DVDの東芝もしかりだ。
(3)容量問題と、旧デファクト技術へのこだわりは根が一つ。
規格化とはある時点で、技術進歩を止めることだ。ところが技術は時とともに必ず進む。光ディスクでは容量を増やす技術がどんどん開発されていく。DVD規格戦争で勝った東芝には、莫大な特許料収入が入った。この良き状態を、次世代でも継続させたいと思うのは人情だ。古今東西の人間のあらゆる歴史は、権勢永遠願望派と革命派の戦いである。光ディスクも同じ。物理容量にかかわる技術とは具体的にはディスク構造だ。CDと同じ12ミリ厚のソニーのMMCDを、革新的な0.6ミリ厚で粉砕しDVDを打ち立てた東芝は、次世代DVDでは墨守派になり、0.6ミリを継承しようとした。権勢永遠を目指したからだ。しかし、今度はソニーに革新的な0.1ミリ大容量技術で粉砕されてしまった。歴史は繰り返す。墨守の姿勢からは、新しい技術は生まれない。
マスコミの論調は市場・流通で負けたというものが多いが、私に言わせると違う。「古い技術」が「新しい技術」に負けたのである。東芝は、よくここまで頑張って引っ張れたものだと思う。
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