ITジュニアの群像
第68回 弓削商船高等専門学校
2008/02/25 20:45
週刊BCN 2008年02月25日vol.1224掲載
導入・運用の容易さを追求
つながりあうネットワーク監視システム
弓削商船高専は、第18回高専プロコンにおいて課題・自由両部門で最優秀賞(文部科学大臣賞)を獲得した。同校の課題・自由両部門制覇は2001年の第12回大会に続いて2回目であり、この1月25日にはNPO法人「ITジュニア育成交流協会」(高山由理事長)の推薦により、BCNが主催する「ITジュニア賞2008」を受賞した。今回は、プロコンの自由部門で最優秀賞に輝いた「join NASS」を中心に、同校のマイコン部の活動を紹介する。(佐々木潔●取材/文)ステータスマップで確認 ログ解析結果も見える化
自由部門で最優秀賞を受賞したのは「join NASS」。導入作業の煩雑さや表示情報の複雑さの解決を目指したネットワーク監視システムである。
携わったメンバーは生産システム工学専攻1年生の桒田(くわだ)充邦さんをはじめ、いずれも情報工学科の澤田和也さん、ポッマサク・ウタイさん(5年生)、エル・バダウィ・ヤシンさん(4年生)、松本優幸さん(3年生)の5人。ウタイさんはラオスからの、ヤシンさんはモロッコからの国費外国人留学生(日本政府=文部科学省が支援)で、国籍・学年も不揃いだが「チームワークはバッチリね」(ウタイさん)と、固い結束を誇る。桒田さん、澤田さん、ウタイさんの3人は前大会で自由部門に、ヤシンさんと松本さんは競技部門に出場している。
ネットワーク監視システムの多くは、導入も運用も難しく煩雑だ。弓削商船ではクラブの顧問であり、卒業研究を指導する長尾和彦准教授が高専の構内ネットワーク管理に当たっており、学生たちはその苦労を間近で見てきたことから、より使いやすく「管理者の負担を軽減できる」ネットワーク監視システムの開発にターゲットを定めたと語る。
まずは、既存のシステムの問題点を洗い出すために、実際に使われているシステム(Nagios)を新規にセットアップしようとしたがどうしてもうまくいかない。設定項目がやたら多く、設定内容も難しすぎるのだ。部員たちは自負心を傷つけられたが、このことが彼らの闘争心に火をつけた。
弓削商船は商船棟、電子棟、情報棟に大別され、この各棟をまたいでネットワークが設置されている。そこで、彼らは監視したい場所に簡単に設置できるように、小型Linuxサーバーを監視サーバー「NASS」として採用した。「つながりあうネットワーク監視システム」という副題はここからきたものだ。また、SNMP監視、サービスチェック、RSS、ステータスマップ、ログ表示などの各機能をXOOPS(PHP言語で書かれたWebコンテンツの構築・管理用ソフト)のモジュールで提供することにした。
こうした考え方を実装したことによって、「join NASS」ではステータスマップ上で、各棟ごとの接続状況や異常発生の有無などの情報を確認することができるようになった。また、活用が難しいログについても「見える化」を図り、解析結果をグラフやレポートとして表示できるようにした。
インターフェースが受け、審査員たちから高い評価
開発に呻吟した課題部門を横目に、自由部門の「join NASS」制作は順調に進み、8月中旬にはプロトタイプの稼働にこぎ着けた。長尾先生が、「あまりおかしなところもなかったし、意外にもきちんと動作した」と感心する出来映えだった。もっとも、仕様書とはかけ離れた点が多々あったため、そうした点を修正するように求めたそうだ。9月に入ってからは研究室内で試運転を繰り返し、よその研究室や棟にもサーバーを設置させてもらい、運用上の問題点を一つ一つクリアしていった。
こうして臨んだ本選では、本人たちが驚くほど審査員からの評価は高かった。ネットワーク監視システムは外部からは動作が見えにくく真価が評価されにくい。そのハンディを覆したのは、ブラウザから監視でき、詳細情報を取得できるという触れ込みを、実装レベルで実現したからである。「使いやすそうなインターフェースだ」「これなら当社でも使ってみたい」という反響を得て、メンバーたちは上位入賞を確信したそうだ。
5年生の2人は卒業後の進路が決まっている。澤田さんは京都に本社がある大日本スクリーン系のSIerに就職し、制御関係のソフトウェアやシステム構築に携わる。ウタイさんは室蘭工大の情報工学科に進学する。専攻科の桒田さんはSEを志望し、4年生のヤシンさんは進学を予定している。
弓削商船は前回も今回も課題部門が女子5名、自由部門が男子5名という構成だった。男女が分かれて活動しているわけではなく、「たまたま2年続けてそうなっただけ」という。
上級生が少なくなる次の大会では男女混成チームに復帰する可能性もありそうだ。
ワイガヤから何かをつかみ取る 長尾和彦准教授
弓削商船におけるプロコン出場母体はマイコン部で、平成19年度の部員数は20人。男女ほぼ同数という構成だ。同校では卒業研究のテーマが提示されると、そのテーマに絡めて部員たちが制作する作品を決める傾向が強く、顧問の長尾和彦准教授(プロコン四国ブロック委員)の研究室が部室と化してしまうのもしばしばのようだ。
学生たちは部活の目的の一つに「後輩の育成」をあげているが、上級生が下級生のために講義を行うといったことはなく、ワイガヤの雰囲気のなかで何かを学べというスタイルらしい。
「いつも鼻歌を唄っている部員もいるし、けっこう賑やかですよ」と長尾先生。もちろん、手取り足取り教えるようなことはなく、プロコン作品もプロトタイプが出来上がるまでは「見て見ぬふり」をしているそうである。
夏休みには恒例の合宿がある。「恒例の」というのは、毎年のように制作が遅れ、合宿でもしない限り間に合わなくなってしまうからだ。この合宿では毎日、男女1名ずつがペアを組んで炊事を担当する。長尾先生によれば、「以前、学生たちに任せていたらご飯だけ炊いて、オカズも作らずに食べていたことがあった。そりゃないだろうと思って、炊事当番のルールを作りました」。以来、合宿の成果は「炊事ができるようになったこと」と胸を張る学生が増えたそうである。
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