地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情
<地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情>北陸編(下)
2008/02/18 20:37
週刊BCN 2008年02月18日vol.1223掲載
競争力もつIT企業がひしめく
「仕事と生活の調和」で厚い人材基盤
■精密機械メーカーが集積 尖った製品で差別化図る
北陸地区は精密機械メーカーの集積度が高い。パソコン周辺機器ではアイ・オー・データ機器、ハイエンドディスプレイではナナオ、業務用スキャナやキオスク情報端末を製造するPFUが石川県に本社を構える。いずれも年商500─1000億円クラスの大手精密機械メーカーだ。村田製作所や松下電器産業など他府県の大手ベンダーが設置した生産拠点も多数稼働している。アイ・オー・データ機器は、外付けハードディスクドライブや記録型DVDドライブなど周辺機器ビジネスの中核をなす製品で販売台数を伸ばす。トップシェアベンダーを表彰するBCN AWARD 2008で、同社は外付けハードディスクドライブなど計6部門の最優秀賞を獲得する実力派である。
石川県の情報サービス企業などが参加する石川県情報システム工業会の会長も務めるアイ・オー・データ機器の細野昭雄社長は、「ハード・ソフトの両面で技術蓄積が進んでいるのが北陸IT産業の特徴」と強みを語る。たとえば、同社の地上デジタル放送用チューナーを内蔵した液晶ディスプレイでは、独自の電子番組表(EPG)ソフトを組み込む。ハードとソフトの技術を巧みに組み合わせた“尖った製品づくり”で優位性を高める。
ナナオも尖った製品づくりでは抜きんでている。ハイエンドのパソコン用ディスプレイで業績を伸ばしてきた同社は、業種展開を加速させている。昨年10月には独シーメンスの医療向けモニター事業を買収し、同2月には航空管制用の高解像度のグラフィックボードなどを開発する米テックソースを傘下におさめるなどM&Aを展開。持ち前の高品質ディスプレイの技術と組み合わせ、医療や航空管制の分野でシェア拡大を目指す。
競争が激しいディスプレイ市場だが、グローバル規模でのM&Aや石川県の主力工場をメインとする付加価値の高い商品づくりにこだわることで差別化を図る。昨年3月には最大600人を収容できる大規模な研究開発棟を総工費約25億円を投じて竣工。「開発創造型のビジネスモデル」(ナナオの実盛祥隆社長)を実現する。国内向けの一部アミューズメント用途を除くディスプレイ製品全体に占める海外販売比率は約6割に達するなど、石川発のグローバルビジネスを展開している。
■北陸の生産拠点をフル活用 女性の就業支援で成長狙う
PFUはキオスク端末などの情報機器を石川県の主力工場で生産する。顧客の要望に合わせた情報機器を個別に開発する生産拠点で、近年ではコンビニや量販店、企業、公共施設の受付に使うキオスク情報端末がヒット商品に育った。設計開発と生産ラインを一体化しているため、最短1週間で試作品をつくれる。「海外の工場ではここまで迅速な対応はできない」(PFUの輪島藤夫社長)と、国内工場の強みを生かしてビジネスを伸ばす。北陸はハードメーカーや本レポート前編で紹介したSIerだけなく、有力ISV(独立系ソフトベンダー)も多い。住宅建築用の三次元CADパッケージソフトを開発するシーピーユーは木造戸建てをメインターゲットとする専門CADソフトの分野で独自のポジションを築いている。
設計情報を入力すれば、図面作成や原価計算、写真と見間違えるほどの高精細な立体映像を自動的に生成するのが売りだ。季節や時間帯に応じた日当たりや風通しまでシミュレーションでき、「工務店やハウスメーカーに顧客向けのプレゼンテーション資料として活用してもらっている」(シーピーユーの田中康俊・取締役営業推進部部長)と、CADソフトひとつで原価計算から販促ツールまでカバーする優れもの。全国1万1000社余りのユーザーを持つ。必要に応じてカスタマイズにも対応している。
北陸では同じ住宅系CADソフトベンダーの福井コンピュータが有名で、シーピーユーといい意味でのライバル関係を保ちながら互いに切磋琢磨する。
大手SIerから精密機器メーカー、ISVなど幅広いIT産業を支えるのは、北陸の人材基盤の厚さである。仕事と生活の調和による暮らしやすさで全国上位を占め、女性の就業率も高い。少子高齢化で働き手が減少傾向にあるものの「女性の力を引き出す基盤が整っている」(富山県商工労働部の中村久征・立地通商課企業誘致係長)のが北陸地区なのだ。
富山県の共働き率は全国3位の56.8%、女性の就業率も全国5位の50.8%を占める。持ち家率が79.1%と全国トップで、三世代同居率も高く、保育サービスも充実していることなどが女性の就業率を押し上げる。北陸地区全体も同様の傾向を示している。
企業も仕事と生活の調和=ワーク・ライフ・バランスに積極的だ。インテックは2006年に社内託児所を開設。現在20人ほどが利用している。都心に勤務地がある企業では、ラッシュアワーの満員電車に幼い子供を連れて乗れないなどの理由で、託児所をつくれないケースがある。北陸は多くの企業でマイカー通勤が可能で、「企業内に託児所をつくりやすい」(インテックの金岡克己社長)という事情がある。富士通北陸システムズは昨年12月、ワーク・ライフ・バランスの整備に取り組んだとして石川県から優良企業賞を得ている。
産業集積によって生産性が高まり、新しい投資を呼び込む。これを地元の豊富な人材基盤が支える好循環が生まれている。労働人口に限りがあるなかでも、仕事と生活の調和を進めることで持続可能な成長につなげる。
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