ITから社会を映すNEWSを追う
<ITから社会を映すNEWSを追う>ガソリン暫定税率と環境税
2008/02/11 16:04
週刊BCN 2008年02月11日vol.1222掲載
グリーンITに飛び火?
これ以上の負担に耐えられるか
1リットル150円超に跳ね上がったガソリン小売価格。ここに含まれる道路特別財源約25円が与野党攻防の焦点となっている。揮発油税の暫定税率の期限が今年3月末に切れるためだ。国土交通省は道路財源の必要性を訴え、自民党は暫定税率の10年延長、対する民主党は臨措法を廃止してガソリン価格を下げ、道路財源は政府の無駄を削減することで捻出するという。福田首相は「ガソリン価格を下げれば排気ガスによる環境負荷が高まる」として、環境税への転換に含みを残す。その理屈でいけばITにも環境税ということになるが、ちょっと待った。消費税に加えて環境税では、企業も国民もたまったものではない。(中尾英二(評論家)●取材/文)■世論をなだめるには環境対策
2002年度に導入された情報化促進税制(IT税制)は、IT投資にかかる課税を優遇するもの。時限立法のため2年ごとに改定され、2006年度に「情報基盤強化税制」に衣替えした。今年4月からASP/Saas事業者の設備投資にも適用される。財政改革の折から財務省は改定・延長に難色を示していたが、「IT活用による経済成長の継続と国際競争力の強化」を主張する経済産業省の粘り腰が勝った。同じ経産省が推進しているのが「グリーンIT」だ。消費電力や発熱量が少ない環境負荷の低いITシステムを普及させることで、CO2やNOxの排出量を抑制しようというのだ。京都議定書で定めた2015年までのCO2削減目標6%達成に欠かせない。優遇税制だけで達成できる見通しが立たなくなれば、「動機付けのためにも環境税」という考え方が成り立つことを、経産省関係者は否定しない。
「ITに限定したアメ(優遇税制)とムチ(環境税)を設定するのは無理がある。議論するなら産業用機器や家電機器と一括して、になるが、CO2の削減は自主的な取り組みが前提。強制するような課税措置は整合性に欠ける」
当面、ITや情報家電機器について環境税が課せられる可能性は低い。ところがここにきて、「成り行きしだいでは……」という声が永田町の一部であがりはじめた。自動車税に適用されている環境負荷加算の考え方を、情報システムに適用できないか、というのだ。消費電力と発熱量が大きなレガシーシステムを使い続けると、税金が加算されるとなれば、サーバー統合やアウトソーシングサービスの利用が増える。一見すると、IT業界にとって悪い話ではない。
■暫定税率廃止が正論
焦点は道路特定財源をめぐる特措法の延長か廃止か、特定財源のままか一般財源化するかだ。延長の場合、特定財源のままか一般財源化するかを問わず、「世論をなだめるには、環境税的な用途を前面に出すことになる」という。なぜガソリンや自動車だけなのか、コンピュータだって冷蔵庫だって同じじゃないか、という指摘が出れば、財務省は小躍りして喜ぶだろう。道路を作るための財源を、道路の利用者に負担してもらおうというのが、道路特定財源のそもそもの主旨だった。受益者負担の原理で設けられた10年の時限立法「道路整備費の財源等の特例に関する法律」(道路特別財源制度)は、揮発油税、石油ガス税、自動車取得税、自動車重量税など複数の税制で成り立っている。1リットル当り約25円というのは、1974年に実施されたガソリン税のかさ上げ分(暫定税率)に過ぎない。その期限が3月末に切れる。
目先にとらわれると、問題の本質が矮小化されるのは、今回の暫定税率の議論も同じ。道路かガソリンか、CO2か環境問題かの議論からいったん目を離して、道路財源=受益者負担の原則が今の時代に通用するのかということから考えてみる必要がある。
10年前、暫定税率延長を決めたとき、政府の言い分は「本四架橋の建設」だった。今度は高速道路を中心とする地方道の整備だという。地方道の建設費を受益者負担の原則で捻出するのなら、大都市圏のガソリン消費者が等しく負担しなければならない根拠が失われる。地方道を利用することがあるじゃないか、という反論もあるだろうが、都市圏のガソリン消費者は高速道路代を払い、現地で購入するガソリンで地方道路の財源を負担すればいい。
ガソリン価格が下がると消費が増え、結果としてCO2抑制の阻害要因になる。環境問題の観点からいかがなものか──と福田首相は言うが、価格高騰によって困窮している中小事業者がいることを忘れている。レギュラーガソリンは10年前に1リットル90円だったから、現在はその1.7倍にはね上がっている。中小のトラック業者をはじめ、建設業、窯業、プラスチック加工業などは燃料費の高騰を吸収できず、倒産に追い込まれる懸念が増している。
暫定税率を延長して、環境対策や社会福祉にも回せるように一般財源化するのは、ガソリン消費者にとって不公平だ。資源エネルギーや産業政策全般を所管し、グリーンITや資源の3R(リユース、リサイクル、リデュース)を主導している経産省に、環境税の創設を求める圧力が強まることも考えられる。環境対策や社会福祉は所得税や住民税もしくは目的税で対応すべきで、道路特定財源を転用するのは無理がある。つまるところ、暫定税率は今年3月末をもって廃止、というのが理屈上、正しい。
■グランドデザインを考えよう
もう一つ問題なのは、今年3月に改定される租税特別措置法の対象は、道路特定財源の暫定税率だけではないということだ。中小企業設備投資促進税制が延長されないと、法人税の特別控除がなくなってしまう。情報基盤強化税制が延長されても、優遇税制の効果は半減する。財務省はこれまで通り一括審議を求め、民主党は表向き、「個々の内容でなく、ガソリン国会で行く」と腹を固めている。暫定税率の廃止で減る税収は1兆4000億円。これがなくなると地方財政はたいへんだ、と知事たちは騒ぎ立てる。しかし地方の中小企業がバタバタと倒産し、これ以上に過疎が進んでも立派な道路が必要かどうか。誰も使わない四車線道路が自然を破壊するのは、環境保護・地球温暖化防止に反さないのか。ガソリン税の暫定税率と中小企業設備投資促進税制は一蓮托生、情報基盤強化税制の効果も暫定税率次第となれば、自民党は解散覚悟で衆院3分の2決議を再行使することになる情勢。だが、ここは冷静になって、この国のグランドデザインを考えるときだ。冷静になるとは、いったんゼロベースに立ち戻ることを意味している。
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