ITジュニアの群像

第66回 弓削商船高等専門学校

2008/01/28 20:45

週刊BCN 2008年01月28日vol.1220掲載

実用性にこだわり困難を克服 ビーズ編み支援のCADソフト

 弓削商船高等専門学校(愛媛県)は、第18回高専プロコンの本選に課題部門1チーム、自由部門1チーム、競技部門1チームが出場し、課題部門の「Beauty and the Beads」と自由部門の「join NASS」が、ともに最優秀賞(文部科学大臣賞)の栄冠に輝くという快挙を成し遂げた。同校の課題・自由両部門制覇は2001年の第12回大会に続いて2回目(当時、自由部門は「コンテンツ部門」)。また最優秀賞(文部科学大臣賞)受賞は通算8回目で、これは全国最多の実績だ。(佐々木潔●取材/文)

テーマが難しすぎて難渋 期末試験の間もデバッグ

 課題部門で最優秀賞を受賞した「Beauty and the Beads」は、ビーズアクセサリーの制作を支援するための3次元CADシステム(設計製図ソフト)である。携わったメンバーはいずれも情報工学科の中本裕美さん、矢野アリスさん、丸山奈希さん(以上5年生)、小柳亜由美さん(4年生)、長尾詩織さん(1年生)で、中本さんと矢野さんは前大会に次いで2度目の出場になる。

 課題部門のテーマは前大会と同じく「子供心とコンピュータ」。企画段階では飛び出す絵本やしゃぼん玉など、候補になりそうなジャンルは一通り検討したそうだが、決定打に欠けているという理由から採用に至らなかった。そんな折、ビーズアクセサリー作りが趣味だという小柳さんに、メンバーが上手にこしらえるコツを尋ねたことがきっかけとなって、ビーズ編みをサポートするソフトウェアができないものだろうか、という発想につながっていった。「他校が手がけそうにないテーマで、かつ実用的な作品にしたい」(中本さん)という条件に合致していたからである。実用的な作品にこだわったのは、「仲間内で完結するシステムにはしたくない。ソフトは〝人に使ってもらってなんぼ〟の世界ですから」(矢野さん)という、実践的な技術力を重視する高専生らしい考え方による。

 だが、メンバーは「実用的な作品」の実現に最後まで苦しめられた。アイデア出しとアルゴリズムの検討に時間を費やしたため、プログラミングに費やせる時間は3か月間しかなくなった。このアルゴリズムとはビーズを通すワイヤリングの手順で、これを上手に処理しないと「難しいワイヤリングを簡単に」というソフトの売り文句に到達できない。

 さらに2次元、3次元のオブジェクトにビーズを貼り付けるプログラムが上手く組めなかった。ライブラリを購入してこれに準拠してやっても上手くいかず、ほしい機能を実装するためにはカスタマイズするしか手がなかった。

 夏休み期間中はハードな合宿をこなしたが、それでもプロトタイプの稼働にこぎつけることができず、指導教員の長尾和彦准教授も、「ガントチャート(スケジュールや作業の進捗を管理するための図表)も作ってみましたが、今回の課題部門はとても管理できませんでした」と振り返る。挑むテーマが難しすぎたのでは…と後悔しても引き返すことはできない。5年生にとっては卒業研究とも関係していたからだ。結局、期末試験の間もプログラムに手を入れ、プロコン当日までデバッグを繰り返したそうである。

画面を見ながら編むことで「ビギナーに優しい」を実現

 こうしてできあがった「Beauty and the Beads」は、球形や円柱などの基本オブジェクトの表面にビーズを配置し、自動計算によってワイヤリングの順序を決定する機能を持つことで、設計図が読めないビギナーでもビーズを編むことができ、制作に慣れた人ならオリジナル作品を編むうえでの手立てを提供してくれる。ビーズを編みながら画面を確認できるように、操作部に足デバイス(フットスイッチ)を使っているのも特徴だ。

 本番のプレゼンでは、審査員の質問も「実際にこれでビーズが編めるのか」という点に集中。ワイヤーの強度を尋ねる質問まで出たが、デモ会場での実演はそうした疑問を吹き飛ばす見事なものだった。

 プロコンが終了してから、さらにつけ加えられた機能がある。作品ごとに必要となるパーツをまとめて専門店に注文できる機能だ。プロコンを「卒研の中間発表のようなもの」と位置づけていた5年生にとっては、これが最後の仕上げとなった。

 5年生の3人はこの春に社会人としてのスタートを切る。中本さんは精密機械部品や超硬工具・治具などに高い技術を持つ桑原精工で、現代の匠(たくみ)を目指す。矢野さんはグループウェアのサイボウズでプログラミングの腕を磨く。丸山さんは松下電器産業の系列会社で照明器具のデザイナーとして働く。

 与えられたテーマに対して独創性のあるアイデアを企画し、チームを構成し、その実現のために粘り強く戦う。プロコンで培われた経験と努力と自信が、社会人として生き、技術者として輝く原動力になることを祈りたい。

全国27都道府県から学生が集まる 落合敏邦校長

 弓削商船高専の歴史は明治34(1901)年に設立された弓削海員学校にさかのぼる。昭和60年に機関学科1学級を電子機械工学科に改組。同63年には航海学科および機関学科を商船学科及び情報工学科に改組し、現在は商船学科、電子機械工学科、情報工学科の3学科に専攻科を加え、600名を超える学生が在籍している。商船学科を持つ関係で学生の出身地は北海道から鹿児島県まで全国27都道府県にまたがり、出身地の広がりではおそらく高専ナンバーワンと思われる。

 同校では、練習船「弓削丸」を使った航海実習を、商船学科にとどまらず他の学科でも2年次(1泊2日)と4年次(2泊3日)に行う。4年次の航海実習は企業の製造・開発現場の見学を兼ねたもので、学生たちは工場見学の行き帰りに、海事工学の観点から制御技術や運行技術を自分の専攻と重ね合わせて学ぶことになっている。

 落合校長はプロコンの意義について、「学生が自らの研究を通して独創性を育む機会」として高く評価している。昨年10月の本選では、会場の津山文化センターまで足を運んで学生たちのプレゼンテーションに見入り、翌日はロボコン四国の会場から帰るバスの中で、プロコン2部門制覇の電話を受けたそうだ。「本校では全国から学生を募集していますが、プロコン強豪校であることは本校を知ってもらううえでとても役立っている」と、その貢献に拍手を送る。

BCN ITジュニア賞
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07年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様

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外部リンク

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