ITから社会を映すNEWSを追う

<ITから社会を映すNEWSを追う>銃刀の管理情報をネットで

2008/01/14 16:04

週刊BCN 2008年01月14日vol.1218掲載

安心・安全にITを活用

自由との共存は地域再生から

 長崎県佐世保市のスポーツクラブで起きた散弾銃乱射事件をきっかけに、銃規制の議論がかまびすしい。日常は銃を警察署などに預けたらどうか、審査を厳しくせよという声と並行して、銃や刀剣にRFIDチップを付けてネットワークで追跡できるようにしよう、という意見が出始めた。書類審査と個人のモラルに頼る性善説が通用しない時代を嘆き、憤っているだけでは地域の安心・安全は守れない。こういう局面にこそITを活用すべきではないか。(中尾英二(評論家)●取材/文)

■“平成の刀狩り”しかない?

 クレー射撃や狩猟を目的に、個人の所持が許可されている銃は全国に33万丁。警官や自衛官に特権的に認められている拳銃、自動小銃、火砲まで加えると、この国には合法的な銃火器がざっと100万丁ある計算だ。このほか所持審査の対象となっていないが、ボウガン、サバイバルナイフなども十分な殺傷能力を持つ。

 銃による事件は佐世保ばかりではない。2002年、宇都宮市で猟銃が殺人に使われたのを皮切りに、昨年は鹿児島市と高知県津野町などで猟銃による殺人事件、殺人未遂事件が10件、東京・目黒の医師宅では5歳の兄が競技用ライフルをいじっているうちに暴発、2歳の弟が死亡した。スーパーの売り場から盗んだ包丁で乳児が殺害された事件もあった。火器や刃物は、ずさんな管理で凶器に一変する。

 日常は警察署の保管庫に銃を預けておいたらどうか、という意見が出た直後の昨年12月19日朝、通勤ラッシュの東京駅で警官が拳銃で自殺。頼りにしていた警察の銃管理がお粗末では、庶民はどうすればいいのか。

 こうなったら“平成の刀狩り”をするほかない。

■RFIDで位置情報も

 「ネットで銃や刀を管理するのも一策だな」

 昨年の末、雑談のなかで総務省関係者がポツンともらした。

 どのようなイメージなのかを尋ねると、彼は「あくまでも個人的な考えだが……」と前置きして、次のような話をした。

 例えば、銃刀に限っては所持を希望する人にプライバシーの権利を認めない。そのうえで銃刀所持者にインターネットで管理状況を報告させる。地域内にある銃刀の管理情報をインターネットで一般に開示する。

 「社会が強い関心を持っているという状況をつくる。銃や刀剣の保有者の意識を引き締めないと、また同じような事件が起こらないとも限らない」

 しかし、第一に銃の所持が事実上、野放しになっていること、第二に個人が自宅で管理していることが問題なのだ。どこにどういう銃や刀剣が保管されているかが分かってしまうと、別の事件を誘発することにならないか。

 「もちろん個々の情報は開示しない。ただ丸めた数字であっても、市民に安心感を与えることができる。さらに銃刀にRFIDチップの装着と登録を義務づける。GPSと連動させれば、銃がどこにあるかを取り締まり当局が追跡できるメリットもある」

 それを実施する主体は、地域という点でいえば市町村、警察という点では都道府県。いずれにせよ地方公共団体が対応することになる。財政が逼迫する地方自治体に、そのようなシステムを導入する余裕があるだろうか──というのが、彼の悩みどころだった。

■矮小化される懸念

 洞爺湖サミットを前に、各県警が08年2月に予定していた銃刀の一斉点検を前倒しで実施した。選挙対策もあって与野党こぞって審査基準の厳格化に動き、テレビや新聞が銃規制強化論でかまびすしい。だが、話題が銃の管理体制や審査基準に集中し過ぎると、テーマが矮小化され、国家による管理を助長してしまう。

 要は、国民の生命・財産をどう守り、憲法が保障する「自由」とどう共存させるかだ。

 話が飛躍するようだが、石破防衛相が「もしゴジラが上陸してきたら自衛隊は災害出動、空飛ぶ円盤が出現したら友好的か敵対的かを確認してから」と会見で雑談。石破大臣ならではだが、民間に2億丁以上保有されているアメリカで、銃による死亡は年1万人前後なのだから自動車より安全、などと発言していたらたいへんだった。

 現実の脅威はゴジラや空飛ぶ円盤でなく、直下型の大地震や風速40メートル級の台風だ。昨年7月に発生した中越沖地震ではっきりしたのは、倒壊家屋の下敷きになった人を救出するのに必要な重機や機材が的確に配備されていなかったということだ。重機や発電機、チェーンソー、ハシゴ、ジャッキ、給水機などの所在情報を把握しておくことも、銃刀と並んで重要ではないか。

 雑居ビルと一般家屋が密集する東京・早稲田では、大学生のボランティアと商店街が協力して、大規模災害に備えた情報を収集しようとしたことがあった。食糧や飲料水を供出してくれる店舗、倒壊家屋を撤去するのに必要な機材の所在場所をデータベースにしておこうという試みだった。

 奈良県の生駒市は、隣接する平群市で04年に起こった女児殺人事件をきっかけに、地域安心・安全ネットワークの構築に取り組んだ。生駒小学校の保護者会が中心となって構築したシステムは、NTTデータがASPサービスとして全国に展開している。プライバシーを侵害することなく、学童の安心・安全、高齢者やハンディキャップを負った人への支援にも適用できる。

 ITを活用した地域コミュニティの再構築──。地味な話題かもしれないが、これが今年の大きなテーマになるに違いない。

ズームアップ
刀狩り
 
 過去に日本で行われた刀狩りは、豊臣秀吉が1588(天正16)年に出した刀狩令が広く知られる。兵農分離が主目的だったが、鎌倉時代に行われた僧兵の武装解除が先例となっている。
 江戸時代には、一揆の抑制と階級社会維持を目的に繰り返し庶民の帯刀規制が行われ、明治維新では旧武士階級から槍刀を没収した。
 直近では1946(昭和21)年に連合国総司令部(GHQ)が占領政策の一環で発令した「銃砲等所持禁止令」がある。このとき一般家庭から100万本以上の刀剣が没収されたという。
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