ITジュニアの群像
第64回 弓削商船、自由部門でも最優秀賞
2007/12/17 20:45
週刊BCN 2007年12月17日vol.1216掲載
デバイスが多様化、使いこなしも向上
優秀賞は豊田高専が獲得 実用的システムが上位に
第18回大会で自由部門を制したのは、弓削商船高専がエントリーした「join NASS(つながりあうネットワーク監視システム)」だった。この作品は、導入に伴う煩雑さや表示情報の複雑さといった、ネットワーク監視システムの障害を解決することを目的につくられたもので、小型Linuxサーバーを監視サーバー「NASS」として採用し、監視などの各機能をXOOPS(PHP言語を用いたコミュニティサイト構築用ソフト)のモジュールとして提供することで、カスタマイズ性の向上を図っている。
システムの特徴としては、ネットワーク監視に関して手軽に導入できること、状況を直感的に把握することを目指し、Webブラウザ上での監視や、異常発生時のEメールによる通知といった機能を備えている。
この作品をつくることになった動機は、「指導教官がネットワーク管理に忙殺されているところから、その負担を軽減させようと考えた」のがきっかけとか。チーム構成も専攻科1人、5年生2人(1人はラオス出身)、4年生(モロッコ出身)、3年生1人とユニークで、開発の中心的存在はラオス人のウタイさん。無欲で臨んだ本選だったが、メンバーは会場で他校のプレゼンとデモを観察し、上位入賞を狙えると確信したそうだ。
優秀賞を受賞したのは豊田高専の「まじかる☆モルるートくん」(化学反応シミュレータ)で、分子や化合物の構造や生成の状態を3D表示することによって、中学生や高校生の学習をサポートしようという作品。「化学反応シミュレータの多くは専門家を対象としたもので、学校教材として使えるソフトがなかった」というのが制作の動機だった。
今大会における自由部門の最優秀賞と優秀賞は例年になく見かけは地味だったが、実用を前提としているだけによく練り上げられ、わずかな改良を施すだけで教育・管理の現場に投入できるレベルの作品だった。
また、審査員特別賞には松江高専の「エムさん」(PDCAサイクルを応用した音楽練習支援システム)、苫小牧高専の「快眠くん」(快適睡眠寝覚めシステム)、詫間電波高専の「WIND+WOW」(癒し系の窓システム)、鳥羽商船高専の「神目線体験」(気球による運動会支援システム)の4作品が選ばれた。
各種センサーが花盛り 携帯用いた作品は激減
近年のプロコンでは、回を追うごとに新しいデバイスを採り入れる傾向が顕著になってきた。第18回大会では入力や姿勢制御にセンサーを使った作品が激増したのが特徴で光・赤外線・温度湿度・加速度とセンサーの種類も千差万別だ。入力部にWiiリモコンを使ったチームも現れた。通信・ネットワーク関係では無線LANやブルートゥースが当たり前に用いられるようになり、またPDAやGPS、タッチパネルの利用も増えた。その一方で、ここ数年増え続けた携帯電話を利用した作品は激減した。また、H8マイコンを心臓部に用いるなどオーソドックスな手法を採用したチームも多く、デバイスの多様化と使いこなしの向上が今大会の特徴であった。
さらに、前大会で惜しくも上位入賞を逃したチームが、同じメンバーを中心に据えて見事にリベンジを果たしたケースが目についた。課題部門で最優秀賞を獲得した弓削商船高専、優秀賞の徳山高専、審査員特別賞の仙台電波高専などで、これらのチームは昨年の経験を踏まえ、テーマや内容を一新した作品で会場を魅了した。
その一方で、気になる傾向もあった。とくに課題部門では、子供に自然を体験させるシミュレータがいくつか出品されたが、擬似体験からスタートして擬似体験で完結してしまっているケースが散見された。提供すべき自然体験が、実際に慣れ親しんだ自然体験ではなく、制作者がイメージとして持っている自然でしかない点を指摘する声も少なくなかった。
なお、インターネットの閲覧ログを可視化する福島高専の「グロウ」(課題部門)など、社会性への視座を持った作品も少数ながら見られ、エンターテイメントに偏りがちななかで注目を集めた。
作品の管理にもっと気配りを 神沼靖子審査委員長
今回の大会は総じて完成度の高い作品が多かった。アイデアを実現するための分析・設計・実装というプロセスを踏んだうえで、課題部門なら子供たちから、自由部門なら想定したユーザーから、それぞれ外部評価をいただき、その要望を取り入れたと思われる作品が、おおむね高い評価を得たものと考えていただきたい。
デモ会場では審査時点までさらに完成度を高めようとした結果、朝には動いていたシステムが審査時点で動かなくなったというトラブルがいくつか散見された。せっかくつくり上げた作品を評価してもらうチャンスを逸することはとても残念なことで、そうしたことが起こらないように、動いているバージョンのバックアップを取るなど、作品の管理にもっと気配りしてもらいたいと思う。
プロコンは作品の完成度で評価されるが、次世代のIT界を担う皆さんには、作品を制作していく過程(プロセス)についても重視してほしい。設計や実装の段階で、なぜそうした方法やツールを用いたのか、他の方法やツールを用いなかったのはなぜなのか、そうしたことを意識しながら作品の完成度を高めれば、質疑応答で審査員をさらに説得できるようになる。
プロコンのレベルの向上に伴って審査員の要求レベルも高くなる。作品のレベルの高さを外部に上手に発信できるように、いっそう工夫していただければ幸いだ。
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