ITから社会を映すNEWSを追う

<ITから社会を映すNEWSを追う>メインフレームが消える日

2007/11/12 16:04

週刊BCN 2007年11月12日vol.1211掲載

いよいよカウントダウン

一番乗りは群馬県

 地方公共団体から、いよいよメインフレームが消えようとしている。佐賀市が先鞭をつけてから4年、各地に波及した“脱メインフレーム”の動きは、もはや止めようがない勢いで進んでいる。これまでは個別の事例として紹介されていたが、このほど群馬県下のすべての市町村からメインフレームが消えることが決まった。全県規模では47都道府県で一番乗りとなる。(中尾英二(評論家)●取材/文)

■ITに限っては先取先鋭

 群馬県下の全市町村からメインフレームが消えるという第一報をもたらしたのは、前橋市に本社を置くジーシーシーの町田敦経営企画部長だ。

 「平成22年度ですから、3年後ですね。関係者にこの話をすると、皆さん、え~っ、ホント?と驚かれます」

 群馬県の形は「鶴が舞う姿」をイメージすれば覚えやすい。その“鶴が舞う”地に、前橋、高崎、桐生、伊勢崎、太田、沼田、館林、渋川、藤岡、富岡、安中、みどりの12市、富士見、榛東、吉岡、吉井、上野、神流、下仁田、南牧、甘楽、中之条、長野原、嬬恋、草津、六合、高山、東吾妻、片品、川場、昭和、水上、板倉、明和、千代田、大泉、邑楽の25町村がある。平成の大合併では大きな変化がなかった。

 現職の福田康夫氏を含めて4人の首相を輩出、選出の国会議員の顔ぶれを見ると冠たる「保守王国」だ。しかし県下の全市町村がメインフレームを撤去し、アウトソーシングに移行するとなると、話は違ってくる。保守どころか、情報システムに限っては先取先鋭といっていい。

■前橋、高崎の2市が踏み切る

 町田氏の話を聞こう。

 「もともと群馬県庁は汎用機を自己導入せず、アウトソーシングを利用しています。対して前橋市、高崎市、伊勢崎市などはメインフレームを自己導入していたわけです。ところが法制度の改正のたびに、多額の費用がかかっていることが分かってきた」

 そこで同社が開発した「e─SUITE」という自治体向け統合パッケージ型サービスを利用することになったという。旧来のモデルでいえばオンライン受託計算サービス、一昔前ならアウトソーシング、最近のはやり言葉ではSaaS/ASPということになる。

 具体的には、高崎市(人口約35万人)が2011年1月から、前橋市(同32万人)が12年1月から、それぞれメインフレームを撤去して同社のサービスに切り替える。すでに桐生市は両毛システムズ、伊勢崎市はジーシーシー、他市町村は両社と高崎共同計算センターなど地元SIerのサービスを利用しているので、高崎、前橋の2市が最後のメインフレーム・ユーザーというわけだ。

 一部の業務のためにメインフレームを残すという選択肢もあるのではないか、という問いに対して、町田氏はこう答えた。

 「結果として、オープン系システムとレガシー系システムの混在を招き、運用が複雑になる。そういう新しい課題を抱えながら電子化による対住民サービスを高度化するのは、なかなか難しい」

■域内のパワーバランス

 近隣の状況をみると、新潟県や長野県の市町村には、いましばらくメインフレームが残る。南北に長く平地と山岳、盆地の起伏に富むなど地勢的な特性があり、広域をカバーする地元SIerが少ないという特徴がある。富山県はインテックが県内市町村のほぼ8割にサービスを提供しているが、2─3の市町村がメインフレームの撤去を決定していない。

 群馬県から東に目を転じると、栃木県にはTKCという大手SIerが存在する。同社も県内市町村のほぼ7割にサービスを提供しているものの、1社だけではカバーし切れていない。埼玉県は県北に群馬勢が展開、南部のさいたま市、川口市、鳩ヶ谷市などはメインフレームとオープン系が混在した状態が続く。

 全国的にみると、メインフレームをすでに撤去または数年内に撤去することを決めている市町村は、着実に増えている。西日本では浦添市、名護市、佐賀市、長崎県、海南市、東日本では市川市、八潮市、郡山市、長井市、山形県などが代表的。オープンソースソフトウェア(OSS)の利活用も拡大している。

 ただ、OSS利活用の分布をみると、地図に刺したマチ針が増えている段階で、面としての広がりにはなっていない。強い意思と指導力を備えた“旗振り役”がいないと、新しい領域に足を踏み出すのは容易ではない。こうしたなかで、群馬県の全市町村がメインフレームの撤去に踏み切るのは、特異なケースといっていい。

 ここで気がつくのは、電子自治体システムに限らず、地域の情報化を推進するには、域内をカバーするITパワーのサポートが必要ということだ。新潟、栃木、富山、長野には有力なSIerが1社しかいないのに対し、群馬県は複数の地元SIerが競合関係を保ちつつ、それぞれが特徴のあるサービスを広域に提供している。県西の高崎共同計算センター、県央のジーシーシー、県東の両毛システムズがそれに当たる。

 つまるところ、市町村も企業も単独で存在しているわけではない。地域SIerの育成が、全国のIT利活用をボトムアップする。それは建設業にも当てはまる。バランスの取れたリソース配置──ITの視点に立った新全総(新全国総合計画)が必要かもしれない。

ズームアップ
電子自治体構想
 
 行政機関の長期計画期間は通常5年が単位だ。電子自治体構想がスタートしたのは1998年だったので、長期計画は来年から3巡目に入る。
 この間にコンピュータの西暦2000年問題、住基ネット、市町村合併があり、01年にIT基本法、02年に行政手続きオンライン化関係3法が成立した。
 1巡目は準備段階ということもあったが、加えて西暦2000年問題もあって、多くの市町村は“脱メインフレーム”に踏み切ることができなかった。ダウンサイジング、オープンシステムに新たな投資を行っても、住民サービスの向上につながらないためだった。
 しかし、将来の少子高齢化と悪化傾向にある財政見通しから、様子見を決め込んでいた市町村が決断を迫られている。
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