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<ITから社会を映すNEWSを追う>e-TAXで5000円の税額控除

2007/10/29 16:04

週刊BCN 2007年10月29日vol.1209掲載

利用率向上の“目玉”になるか

知らせたいけれど、知られたくない?

 e─TAXで電子的に確定申告をすれば5000円が控除されるという話を、読者はどれほどご存じだろうか。2007年分と08年分の所得税に限っての臨時措置だ。先の政府税制改革で本決まりになったが、一部のメディアを除くと、あまり報道されていないので、「えっ、ほんと?」という方も少なくないだろう。納税は国民の義務である一方、その扱いはすべての納税者に平等でなければならない。電子申告をした人だけ、あるいはこの情報を知っている人だけが5000円得をするというのは、いかがなものだろうか。(中尾英二(評論家)●取材/文)

■実際の利用率は3%強

 e-TAXの正式名称は、「国税電子申告・納税システム」。インターネットでe-TAXのホームページにアクセスすると確定申告の書式が表示され、数字を入力するだけで税額を自動的に計算してくれる。電子的に納税手続きをしなくても、プリントアウトした数字入りの用紙を税務署に持参してもいい。手書きで作成するよりはるかに楽だ。

 05年分の所得税について、確定申告書の作成に約1000万件のアクセスがあったものの、提出は69万件にとどまった。確定申告による納税者はおよそ2000万人なので、2人に1人がe-TAXサイトにアクセスしたが、実際の利用率は3%強に過ぎなかったことになる。そこで打ち出したのが今回の優遇措置というわけだ。

 一部のメディアで流れた情報は、「5000円還付」というものだった。しかし国税庁の資料によると、実際は還付でなく、確定申告額から5000円が控除される。また所得税徴収高計算書の送付に際してはIDとパスワードの入力で済むよう簡素化され、領収書などの添付書類も税理士が確認したうえ、スキャナで取り込んだイメージデータでも可となる。

 こうした優遇措置で、3%強の利用率を3年後に50%まで高めるのが狙いだ。国税庁が掲げる数値目標は、「平成22年度に公的個人認証、商業登記認証約1930万件、ICカードリーダー・ライターの普及台数1050万台」である。さて、3年間で17倍に増えるだろうか。

■ガソリンなら30リットル分?

 e-TAXにかかわる措置は、今年度の政府税制改革の特例として、07年分と08年分の所得に限って適用される。ガソリンをはじめ、カップラーメン、貴金属、ハム・ソーセージなど原油高を理由にドミノ倒しの値上げが相次いでいる。加えて少子高齢化で増税は必至。そういうなかで所得税5000円の控除は何とも魅力的だ。ガソリンなら30リットル以上、1杯650円のラーメンが約8杯、ちょっと豪勢にステーキなら2人分。

 「それなら自分も」

 と腰を浮かしかけた人、ちょっと待った!

 控除を受けるには、まず住居のある市町村から電子証明書(住民基本カード)を発行してもらわなければならない。そのうえで、自宅のパソコンに接続するカード読取装置を購入する。それでe-TAXのサイトにアクセスし、電子申請・納税用の個人認証を確定する。パソコンとインターネットを使い慣れた人なら、さほど難しいことではない。

 ところが、住基カードの作成に1000円(さらに市町村の窓口で受け付けてから発行までに30分ほどかかるから、仕事を半日休まなければならない)、カード読取装置に約3000円の“投資”が必要となる。つまり得をするのは差し引き約1000円だ。役所の窓口に出向く時間、読取装置を購入してセットする手間をかける価値があるかどうか。ただし、1台の読取装置を何人かで使いまわせば、トクする額は増える。

■発行能力が追いつかない

 ここで問題がある。住基カードの発行能力だ。 全国1820市町村の1日当たり発行能力は最大約2万-2万5000枚。確定申告者はおよそ2000万人なので、市町村窓口が1年200日稼働しても全員に発行するには3年以上かかる。

 カード発行機を増設すればいいのだが、今回の措置は一時的なもの。その費用は市町村の負担になる。個人も無駄な投資をすることになってしまう。しかも確定申告による税収は年間1兆2000億円前後で、所得税収14兆円の1割に満たない。社会全体が負担する総コストに見合うとはいえない。

 「自治体の都合も考えず、国は一方的に普及策を考える。特例措置を作っても実態が追いつかない」

 「物理的に無理。そうなると納税者からクレームが出るのは必至。自治体の窓口職員が住民から恨まれ、国は知らん顔をして、自治体の対応がよくないと叱りつける。これって、どこかおかしいですよね」

 自治体関係者は国の気まぐれに当惑を隠さない。

 もっと大きな問題は、納税義務と税負担平等の原則がほころぶことだ。というのは、最も納税人口が多いサラリーマンは、所得税を給与から天引きされているため、原則として優遇措置の恩恵を受けられないのだ。会社に「私は確定申告をしますから、天引きはしないでください」と申し出るのは勇気が要る。

 どのような形で納税していようと、税制は国民全員に等しく適用されなければならないのに、結果として不平等が発生する。しかも国は5000円控除の情報を周知徹底する努力をしていないようにみえる。たしかにWebサイトに情報を掲載しているが、一大キャンペーンを展開しているでもなし、市町村に代わって住基カードを発行する仕組みを作るでもない。

 e-TAXはPRしたいが、PRすれば税収が減少する。5000円控除の情報はあまり知られたくない。数値目標に振り回された付け刃的な政策が不平等を生む。これでどうして「利用率50%」が達成できるのだろうか。

ズームアップ
総務省の数値目標
 
 一昨年の8月、総務省は電子自治体システムの利用率を5年内に50%に引き上げる数値目標を設定した。そのためには、まず住基カードの発行枚数を増やそうというのが、今回の措置の狙いにほかならない。
 ただ「利用率50%」の数値目標については、「何を基準にするのかはっきりしない。ご都合主義的な数字ではないか」「利用率より行政の事務処理コストを目標とすべき」という指摘もある。自動車運転免許証や健康保険証に住基カードの機能を持たせるなど、省際連携の施策が必要ではあるまいか。
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