ITジュニアの群像

第61回 福島県立平工業高校 円谷光兵さん

2007/10/15 20:45

週刊BCN 2007年10月15日vol.1207掲載

プログラミング歴2年で入賞!

 昨年開催された第27回U-20プログラミング・コンテスト(U-20プロコン)の個人部門で入賞を果たした福島県立平工業高等学校の円谷光兵さん。受賞時はまだ1年生、そして実際に製作にあたったのは中学生の時だという。その円谷さんに入賞の感想、将来への抱負などを聞いた。



入賞を勝ち取ったのは中学時代に作った作品

 平成18年度U-20プロコン個人部門の入賞者5名のうちのひとりに選ばれたのは、平工業高校情報技術科2年生の円谷光兵さん。現在、2年生ということは、高校に入学したばかりの時期に応募し、いきなり入選したということになる。

 実は、円谷さんの入賞作品Cube3(Cube neo)は中学校時代に約1か月かけて作ったもの。高校に入ってから、学校の掲示板に貼ってあったU-20プロコンのポスターを見て、「試しに出してみようか」と思い、誰に相談することもなく応募した。それが1回めで入賞。円谷さん自身もその連絡を受けた時はビックリしたそうだ。

 Cube3は、四角形の物体(キューブ)を壁に触れないように進ませるゲーム。シューティングゲームのようにキューブから弾を発射することができ、敵を倒しながら進んでいく。ステージが上がるにつれて難易度も上がっていく仕組みで、65ステージまである、かなり大がかりなものだ。

 入賞の知らせがあり、東京でのプレゼンテーション・表彰と、はからずも大きな舞台に上ることになった円谷さんだが、やはりだいぶ緊張したようで、「カンペを用意していったのですが、プレゼンではほとんどその通りには説明できませんでした」とその時の様子を話してくれた。

 高校1年生に緊張するなというのは無理な話だが、それは彼にとって得難い体験だったに違いない。

徹底的にこだわり 独学で作り上げる

 円谷さんは中学1年生のとき、こづかいを貯めて自分のパソコンを買った。それ以来、ゲームのプログラミングに興味をもち、この作品もすべて独学で作り上げたのである。

 「自分のパソコンを手に入れる前は、『RPGツクール』といったソフトでゲームを作っていたのですが、キャラクターやステータスは作れるものの、戦闘の形式や画面のデザインは自分で作ることができません。それがいやで、自分で最初からプログラムを組もうと思いました」

 やはり、好きなものには徹底してこだわりたい、他人が作ったものではなく自分の思うように作りたいという気持ちが大きいのだろう。

 苦労した点について尋ねると、当時、自宅にインターネット環境が整っていなかったことと答えてくれた。つまり、彼のプログラミングの知識はすべて本から得たもので、ネットを通じて情報検索したり、先生や先輩に教えてもらって身につけたものではなかったのだ。

 情報技術科の草野修教諭も「入賞しました」と報告を受けて、はじめて知ったと苦笑する。

 草野教諭の円谷さん評は、物静かでプログラミング能力が高い生徒ということで、やはり、沈思黙考しつつ目標に向かって作業に没頭していくタイプのようだ。

 ところで、平工業高校にはコンピュータ部やパソコン部といった部は設けられていない。しかし、資格試験を受けたり、コンテストに出場する生徒などへの支援態勢は整っている。

 放課後には、40台の端末がずらりと並んだコンピュータ室を開放し、自分の研究課題や資格試験の勉強、出場しようとするコンテストの課題について教員が随時質問を受け付け、きめ細かな指導を行っている。円谷さんのケースは入学前のことなのでややイレギュラーだが、平工業高校の生徒はやる気さえあればいくらでも挑戦できる環境にあるといえるだろう。実際、ロボコンやMCR(マイコン・カー・ラリー)、パソコン甲子園、ものづくりコンテストなどには、毎年必ず何人かがエントリーしているそうだ。

将来は専門学校進学でゲームクリエーターに

 昨年の第27回U-20プロコンに入賞して何が変わったかと円谷さんに尋ねると、大きな変化はないが、自分ひとりでダラダラやっていくのではなく、メリハリをつけ「ダメだと思っても出してみよう」という気持ちになったという答えが返ってきた。自己満足にとどまるのではなく、より広い世界に向けた積極性が芽生えてきたのである。

 円谷さんは、ゲームデザイン科のある専門学校への進学を希望している。そしてその後はもちろん、ゲームクリエーターという仕事への挑戦だ。

 もうこの時点で、彼は将来の自分の姿をしっかりと見据え、その目標に向けて歩みを進めているのだ。

 U-20プロコンでの入賞が、その気持ちにどれだけの影響をもたらしたのかはわからない。しかし、志望するゲームクリエーターへの道程における、ひとつのマイルストーンとなったことは間違いないだろう。 

高いハードルへのチャレンジを! 綱田直正校長

 地元では「へいこう」の愛称で親しまれている平工業高校は昭和15年創立。機械科、電気科、情報技術科など6科が設置され、現在860名の生徒が学んでいる。

 部活動も盛んで、昨年はラグビー部が花園の全国大会に出場したほか、自転車競技部、柔道部、テニス部なども全国レベル。また生徒会はボランティア活動に力を入れており、アルミ缶回収の収益で福祉施設に車椅子の寄贈を続け、日本善行会の表彰を受けた。

 進学希望と就職希望の生徒はほぼ半数ずつ。ちなみに今春の進学者151名中100名が四年制大学に進んでいる。そして、競輪学校入学を目指す1人を除いて全員が自分で進路を決め、合格したという優秀さだ。

 綱田校長は、「工業高校のなかでは学力の高い生徒が多く、まさに文武両道を体現している」という。もちろん資格取得にも力を入れており、情報関係の難関資格である基本情報技術者試験に昨年、今年と連続して合格者を輩出し、さらに今年は、大学生でも難関といわれるソフトウェア開発技術者に1名が合格した。

 綱田校長は、福島県初の民間人校長のひとりであり、5年前までは自動車メーカーの技術者だった。このため、実業界・工業界の人材ニーズを熟知している。それだけに、「生徒にはいろいろな面で、より高いハードルに挑戦してほしい」と語る言葉には実感がこもる。

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今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
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外部リンク

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