地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情
<地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情>東海編(下)
2007/10/01 20:37
週刊BCN 2007年10月01日vol.1205掲載
活況を呈する組み込みソフト
「主体性のなさ」も浮き彫りに
■補助的役割に終始するな 独自ビジネス必要と説く
組み込みソフトは中部地区全体で8000億円余りの開発規模があると推測されているが、その大半は自動車や家電メーカー内部の開発費が占めている。ITベンダーは完成品メーカーの補助的な役割しか担っていないケースが目立つと、かねてから指摘されていた。一般の業務用システムを開発するベンダーが、ミドルウェアやアプリケーションを自社製品としてパッケージ化したり、自社データセンターを活用したアウトソーシングなど独自のサービスを打ち出しているのに対して、組み込みソフト業界はこうした点で遅れているというのだ。
ソフト開発の業界団体である情報サービス産業協会(JISA)では、独自商材を軸とした提案型のビジネスを拡大させる取り組みや、過度の多重下請け、人材派遣への依存から脱却する方策を模索してきた。こうした構造改革は近年のJISA幹部の最大の課題のひとつでもあり、一部ではあるが改革の成果も出始めている。
こうした動きをつぶさにみてきた組み込みソフトの業界団体・組込みシステム技術協会(JASA)の松尾会長は、「JISAの苦い経験をもっと真摯に学ぶべき」だと警鐘を鳴らす。
売上高規模において組み込みソフトをはるかに上回る業務システム分野での経験は、今後拡大が見込まれる組み込みソフト業界が参考にすべき点を多く含む。企画・設計など上流工程に関与できず、部分的なソフト開発のみを受託する形態では付加価値は生まれにくいのは明らか。開発工程をコストの安い海外ベンダーや、国内の他の地域に移されたら「一巻の終わり」(東海地区の大手組み込みソフトベンダー幹部)である。
■未来指向の技術力で勝負 大手メーカーに積極提案
オリジナルの商品・サービスを追求し続ける地元ベンダーがいないわけではない。未来技術研究所(若杉直樹社長)は、大手メーカーに自らの技術やノウハウを果敢に提案することで有名だ。自動車や家電など幅広く手がけるが、近年では自動車の制御システムとITS(高度道路交通システム)を組み合わせたシステムの先行開発に力を入れる。ITSと自動車間ではさまざまなデータをやり取りする必要があり、高度な技術が求められる。この部分で「メーカーより先を行く未来指向の技術を商材の中心に据える」(若杉社長)と、研究開発型のビジネスモデルを実践する。相手が大手メーカーだけに、研究成果だけ買いとられて、その後の売り上げに結びつかないリスクは常につきまとうが、それでも「先行開発型である強みは必要」だと譲らない。
名古屋市の中心地・栄に本社をおくヴィッツ(脇田周爾社長)は、産官学連携のTOPPERS(トッパーズ)プロジェクト(高田広章・名古屋大学教授)に積極的に参加し、その成果を自社製品の開発に生かしている。
たとえば、自動車の車内通信用ミドルウェアの開発で、TOPPERSで開発したミドルウェアと連携できるよう仕上げた。この製品は同社が経済産業省の地域新生コンソーシアム研究開発事業に参加し、同業のサニー技研や東海ソフトなどとともに共同で開発。今後拡大が見込まれる自動車用制御ソフトの開発に役立たせることを狙う。
1997年に創業したヴィッツは、もともとFA(工場の自動化)分野の組み込みソフトをメインに手がけてきたが、00年頃から自動車や家電メーカー向けの仕事が増えた。自社商材に乏しかったことなどから一時は客先に技術者が常駐するビジネスの比率が売上高全体の7割近くに達したこともあった。売り上げは増えるが、社員が客先に分散してしまうためノウハウが蓄積しにくい。何とか独自性を打ち出せる技術を身につけたいと考えていたタイミングでTOPPERSプロジェクトに参加する機会を得た。
■先端を行くトッパーズ ベンダーの参加相次ぐ
折りしも自動車の電子制御システムが急速に高度化するタイミングで、今後のITSとの連携を考えると市場の拡大が期待できる。自動車は「ECU」と呼ばれる複数の制御ユニットによってエンジンやハンドル、ドアや窓の開け閉めなどを制御・監視している。大衆車でも数十個のECUが積まれ、高級車では100個近くなることも珍しくない。ECU同士の通信の高速化や外部のITSとの連携など、この分野では新たな技術革新が求められている。こうした新しい技術に対応するためにTOPPERSなどの活動に参加するものの、「プロジェクトの活動するための人件費、自社商材を開発するための研究開発費は膨らむ」(ヴィッツの脇田社長)わけで、短期的には利益を圧迫する要因になっていることは否めない。昨年度(07年8月期)は先行投資のため前年度比で減益に甘んじた。
東海地区の組み込みソフト開発は人手不足が続いていることから、客先常駐による大規模なソフト開発に参加する機会は少なからずある。だが、「目先の売り上げにとらわれるのではなく、技術力、競争力で勝負したい」という思いから敢えて〝いばらの道〟を選ぶ。「今がふんばりどころ」と、自社商材のブラッシュアップと収益の拡大に向けてドライブをかける。
大手完成品メーカーに依存するのではなく、自立した企業同士が連携してこそ付加価値の高いビジネスができる。「他社にはない製品、サービスをつくる大切さ」(松尾会長)が、組み込みソフト業界で改めて問われている。
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