ITジュニアの群像

第59回 鳥取県立米子工業高等学校

2007/09/17 20:45

週刊BCN 2007年09月17日vol.1203掲載

大会に挑む先輩と、背中追う後輩



人を育てる好循環を受け継ぐ



 2005年度と06年度の「高校生ものづくりコンテスト」全国大会の電子回路組立部門で、ともに3位に入賞した鳥取県立米子工業高等学校。今年度も、同部門で中国地区大会の優勝と準優勝を勝ち取り、11月に静岡で行われる全国大会への出場が決まっている。3年連続で全国大会進出を果たし、今年こそ悲願の全国優勝を目指す同校。ものづくりへの情熱は先輩から後輩へと受け継がれ、担当教師の不断の努力が、その情熱を支えていた。果たして今年、悲願達成は成るだろうか。(中村光宏●取材/文)

手探りの全国大会出場で2年連続3位入賞果たす

 「高校生ものづくりコンテスト」全国大会の電子回路組立部門で、2年連続で3位入賞を果たした岩田貴志さん。コンピュータテクノロジー科の岩田さんは、1年生の冬に鳥取県大会で優勝、2年生になって行われた中国地区大会を制して全国大会へと進んだ。3年生の時の全国大会では優勝を狙ったが、惜しくも2位以上には手が届かなかった。しかし、審査員からは「技術・技能は大学生のレベルを超えている」と、極めて高い評価を得ていた。



 

同校が「高校生ものづくりコンテスト」に挑戦するようになったのは、3年前、岩田さんが1年生の時である。授業でハンダ付けなどの実習を行っている最中に、「この生徒たちならやれそうだ」と思い立った足立誠司教諭が、岩田さんを含む3名の生徒に声をかけて、コンテスト出場のための「ものづくり同好会」を発足したのがきっかけとなった。生徒も教師もまったくゼロからの手探りで、一緒になって課題克服に取り組んできたのだ。

 「高校生ものづくりコンテスト」の電子回路組立部門では、ハンダ付けなど回路を製作する工作の技能と、課題に沿った回路を設計し、動作させるためのプログラム構築のセンスの両方が問われる。「トータルな組込技術が求められるので、生徒に指導するには、まず教師がレベルアップを図らなければならかった」と足立教諭は振り返る。



 

実は、最初の全国大会にはポケットコンピュータを持って出場していた。同校では入学時に、生徒1人に1台、ポケットコンピュータが与えられていたことから、それを使うのが当然と考えたらしい。ところが大会の会場では、周囲はすべてノートPC持参の学校ばかり。ポケットコンピュータで参加しているのは同校だけだったのである。審査員からも、「県や学校に言って、ノートPCを買ってもらってください」と助言を受け、足立教諭は、顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたそうだ。

 そんな経験をしながら3位入賞を重ねた岩田さんが今春、同校を卒業し、全国大会優勝への悲願は、同じコンピュータテクノロジー科3年生の山本昇平さんに託された。1年先輩の岩田さんの背中を見ながら、山本さんも1年生の時から、「ものづくり同好会」で研鑽を積んできたのである。



教師作成の問題で特訓 先輩の後ろ姿を励みに



 コンテストでより上位の入賞を果たすには、実習を重ねて技能を磨くとともに、日ごろからいくつもの練習問題を解いて、さまざまな制御プログラムのつくり方について知識を深めておく必要がある。

 どんな課題が出ても「これならやったことがある」と生徒たちが思えるくらいに、硬軟取り混ぜたレベルの高い練習問題を考案するのは、足立教諭の役割だ。しかし、学校内外の多忙な仕事と並行して問題づくりを行うのは、容易なことではない。足立教諭は、常にメモ帳を持ち歩いて、問題を思いついたら書きとめているという。「先日も、車の運転中に道路脇の気温表示板を目にして、小数点を扱うプログラムを思いついた」のだそうだ。そうしてできた練習問題に、中国地区大会の前夜、山本さんは、なんと午前1時まで取り組んでいたという。「難しい練習問題ほど、やり遂げると達成感があるし、何より大会本番でも落ち着いて考えることができるようになる。プログラムを学んでいくと、単純に見えるものの裏側にも複雑なロジックが働いていることがわかって、とても興味深い」と山本さんは言う。



 

大会1か月前になると、教師も生徒も放課後9時近くまで、休日も返上しての特訓となる。「ものづくり同好会」は今年度から正式なクラブとなったが、上級生も下級生も一緒になって練習問題に取り組み、まず各自が問題をクリアできてから、お互いにアドバイスを聞き合うという姿勢は、発足当初から変わっていない。

 山本さんには、「岩田さんが問題に取り組む姿が、自分には大いに刺激になった。先輩がいたから、『全国大会で入賞するにはあれだけやらなければいけないんだ』という覚悟ができた」という思いがある。それだけに、先輩の残した成績を超えたいという思いも強い。

 そんな山本さんを先輩として見つめているのが、情報電子科(コンピュータテクノロジー科は06年度から情報電子科に変更)2年生の藤原宏介さんと大上健人さんだ。藤原さんは、今年度の中国地区大会で山本さんに次いで準優勝している。

 優れた先輩の背中を追いかけながら、優秀な後輩が育っていく。当たり前のようでいて難しい人材育成の好循環が、同校では自然とできあがっているようである。



起業家精神は人材育成の要 八田定夫校長



 今年、創立85周年を迎える米子工業高校。鳥取県で最初の工業高校であり、開校以来、校舎は変わらず同じ地にある。1万6000名に達する卒業生たちは、ライフラインや鉄道・道路・港湾など県内のインフラ整備を支えてきた。地元産業と経済の発展に欠かすことのできない人材を輩出することで知られる名門校である。

 鳥取県では今年度、文部科学省と経済産業省が後押しする「ものづくり人材育成のための専門高校・地域産業連携事業」が実施されており、同校はその中核を担っている。八田定夫校長によると、「卒業生・OBからの支援も非常に大きく、85周年事業として、5つある学科で計9つのテーマを掲げて人材育成事業に取り組んでいる」という。「高校生ものづくりコンテスト」全国大会での3年連続入賞も、そのテーマの1つだ。

 県をあげて「ものづくりの人材育成」を推し進める背景として、八田校長は、「日本人の器用さや技術力が世界で通用しなくなることはないだろう。しかし、これからものづくりを担う若者には、さらに起業家精神が必要となってくる」と語る。単に技術を継承するだけでなく、自ら考え創造できる人材を育てることが、鳥取県の産業と経済、ひいては日本の未来のために求められているというのである。同校OBら地元産業界からの支援も、まさにそうした認識があるからにほかならない。



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今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様

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外部リンク

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