ITジュニアの群像

第58回 一関工業高等専門学校

2007/09/10 20:45

週刊BCN 2007年09月10日vol.1202掲載

 一関工業高等専門学校は、プロコンの第17回大会競技部門で特別賞を受賞した。出場母体の電子計算機部はここ数年で部員が急増し、コンテストへの出場も活発化。この夏に行われた大阪大学・東京工業大学主催のスーパーコンピューティング・コンテストでは奥田遼介さん、菅原拓也さんの3年生チームが優勝した。秋に開かれる高専プロコン第18回大会では、経験者を中心に競技・自由の両部門で上位進出を狙う。(佐々木潔●取材/文)

第17回大会競技部門で特別賞

今年8月のスパコンでは堂々優勝



2-3年で部員が急増 コンテスト出場も活発



 一関高専においてプロコンの出場母体となるのは電子計算機部。メンバーの長老格である専攻科1年生の佐藤光さんによれば、5-6年前までは入部者も少なく、新入部員がゼロの年さえあったそうだが、ここ2-3年で急増し、今では30名を数える大所帯になった。

 これは、オープンキャンパスや体験入学などで、中学生を対象とする公開講座を行ったり、電算施設を見学させたことによるもので、常時クラブにやってきて活動しているメンバーも15-16名を数える。部員が急増した3年前からは、1年生を対象に上級生がC言語の基礎を教える講習を開始し、最近ではeラーニングシステムを組んで、各自が好きな時間に学習できるような環境を整えている。

 年間活動は高専プロコンがベースとなっているが、出場者やチームメンバーの選定は部員が主体的に行い、学校が関与することはない。日常の活動や取り組んでいるプログラムなどから上級生が判断し、やる気のありそうな部員をそろえてメンバーを構成する。もっとも、最近では活動の舞台も広がり、この夏に行われたスーパーコンピューティング・コンテストでは、1年から3年までの各学年ごとにチームを構成して送り込み、うち2チームが予選を通過。作品名「snowdrop」で挑んだ3年生チームが居並ぶ強豪校を下して優勝の栄冠に輝いた。

 クラブの顧問は千田栄幸准教授(電気情報工学科)と小保方幸次准教授(制御情報工学科)の2人で、「基本的には相談に乗る程度。学術情報や学会誌情報などは提供しますが、日常の活動は部員の自主性に委ねています」(千田先生)、「とくに指導はしていません。私が思いつきで喋ったことのなかから、学生が選択して膨らませていくことでプラスになればいい」(小保方先生)と、学生の主体性を重視しているようだ。

 プロコンへのエントリーは、ここ4-5年、競技部門1チーム、課題または自由部門のどちらか1チームというパターンが続いている。

 昨年の第17回大会では熊谷一生さん(制御情報工学科・5年生)、奥田遼介さん(電子情報工学科・3年生)、鈴木貴樹さん(電子情報工学科・2年生)の3人のチームが、「EEZ」(Exclusive Enigmatic Zone)というプログラムを携えて競技部門に出場し、みごとに特別賞を受賞した。

 この作品のアルゴリズムは、オセロや将棋などの対戦ゲームに用いられるMini Max法に基づいて構成されていた。対戦ゲームにおけるMini Max法とは、自分にとって最も有利な手を打つ(Max)動きと、相手が自分にとって最も不利な手を打つ(Min)動きを、コンピュータによって繰り返させるもので、EEZでは次の一手を9手先まで読んでMinとMaxを選ぶことができるように書かれていた。おおまかな構想は熊谷さんが練り、奥田さんが修正を加えたうえで詰めの作業を行い、会場でのプレーヤー役を鈴木さんが務めた。

 熊谷さんによれば、「AIだけで完結するならばそこそこ戦えるという自信作」であったが、会場に到着してからさらに一工夫を加えた。PCのうちの1台を次の一手の表示システムとして利用することによって、プレーのタイムロスを短縮したのだった。同一勝率の複数チームのなかから、同校が特別賞を受賞できた理由を、部員たちはこの表示システムが審査員の目をひいたこと、圧倒的に不利なパターンから逆転勝利をあげた対戦があったこと…ではないかと想像している。

 今年の第18回大会では、熊谷さんと奥田さんに下級生1人(取材時にはメンバー未定)を加えたメンバーで上位を狙う。大会の共通テーマである「石垣工務店」では入札のプログラムという厄介な問題があるが、熊谷さんと奥田さんには何やら秘策がありそうだ。



音楽を楽しむツール Play Link



 また、今年の大会では佐藤光さん、千葉鷹志さん(制御情報工学科4年生)、鈴木貴樹さんの3人による「Play Link」が自由部門の予選を突破した。これはiPodなどのプレーヤーで音楽を楽しむためのツールで、手持ちの楽曲(音楽プレイリスト)の共有・閲覧・検索などの機能を持たせ、さらに、サーバーからその曲の評判・評価を取り込めるようにするそうだ。幸い、同校では8月の盆休みの前に前期試験を済ませてしまうので、9月いっぱいを作品づくりに当てることができる。夏合宿でどう作り込み、どんな作品として姿を現すことになるのか、なかなか楽しみである。



産業立地で活躍の舞台広がる 丹野浩一校長



 一関高専は岩手県南部、宮城県北部との県境、一関市にある岩手県唯一の高等専門学校だ。一関市の北に隣接する平泉町には、ユネスコ世界遺産に登録申請中の平泉文化遺産があり、その数キロ先の胆沢郡金ヶ崎町には、平成5年11月に竣工した関東自動車工業岩手工場がある。経済産業省と岩手県は、この南部一帯を世界文化遺産と工業振興の両立を目指す地域と位置づけている。一関高専もその地域特性への貢献には熱心で、自動車関連産業を中心とするソフト・ハードの連携・融合分野への人材供給と、環境マネジメントの推進に力を入れている。

 学校が設立された昭和30年代後半、この地域には卒業生を受け入れて活用するだけの産業が立地していなかったが、関連産業のすそ野が広い自動車産業の進出は、大きな経済効果と、地域の活性化をもたらし、就職先は岩手・宮城両県で40%を占めるまでになった。同校は制御技術に強い高専として知られており、近年は特に組み込みソフトに注力していることから、人材供給への期待もかつてなく高まっている。

 もちろん、丹野校長は「学生が自主的な取り組みによって企画・構想・実践力を試す絶好の機会」とプロコンの教育的意義を高く評価しており、電子計算機部をはじめとする技術系クラブの活躍が、同校発展の原動力になるものと期待をかけている。



BCN ITジュニア賞
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今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様

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外部リンク

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