ITから社会を映すNEWSを追う
<ITから社会を映すNEWSを追う>経産省がグリーンITを計画
2007/09/03 16:04
週刊BCN 2007年09月03日vol.1201掲載
情報通信の消費電力40%減に
サーバー統合でCO2抑制も
電力の供給が需要に追いつかなくなるほどの熱波に襲われた今年、地球温暖化の恐ろしさを体感した人も少なくない。情報システムは省力化と効率化の決め手に位置づけられてきた。「ソフトウェアこそエコロジー」が“売り”だったIT機器やネットワークは、利用が広がれば広がるほど、電力消費量を増大させ、二酸化炭素や窒素酸化物を排出する矛盾を孕んでいる。ITにも省エネ技術を──経済産業省がいよいよ動き出した。(中尾英二(評論家)●取材/文)酷暑の影響は熱中症患者の急増ばかりでなく、首都圏での電力供給の逼迫というかたちで表面化した。東京電力は中越沖地震で柏崎刈羽原発(821万キロワット)が停止、塩原水力発電所(栃木県那須塩原市、90万キロワット)もデータ改ざんなどで運転を休止、そこに酷暑が追い打ちをかけた。
■節電効果は20万キロワット
8月20日、東電管内都県の最高気温は、茨城・古河と東京・練馬38・2度、埼玉・熊谷38.0度、神奈川・海老名37.0度、宇都宮36.4度、甲府36.3度など、平年より4.7─7.7度も高かったうえ、オフィスの冷房設備や工場がフル稼働した。午後2時から3時の最大電力需要は5938万キロワットに達し、供給余力に黄信号が点灯したのだ。最高気温が1度上がると、電力需要は170万キロワット跳ね上がるとされている。翌21日、この日の最大電力需要はとうとう6000万キロワットを突破した。東電は「このまま猛暑が続けば、首都・東京をマヒさせることになる。随時調整契約を発動せざるを得ない」と判断した。大口需要者に電力料金を割り引く代わり、需給が逼迫したとき優先的に電気の使用を減らしてもらうというもので、1250社が契約している。
東京都内の最高気温が37度となった22日、東電は塩原水力発電所の緊急稼働と北海道、東北、北陸の3電力から追加融通で6400万キロワットを確保、併せて随時調整契約に基づいて化学、非鉄金属メーカーなどに節電を要請した。同契約の発動は17年ぶり。計23工場で生産ラインの一部停止などで、最大20万キロワットの節電効果があったとみられている。
■48億円で温暖化防止技術
同じ8月22日、東京・有楽町の東電本社からほど近い霞が関でも動きがあった。経済産業省が策定を進めている2008年度情報政策関連予算の概算要求案だ。そのなかに情報システムやIT機器の消費電力抑制技術などを開発する「グリーンITプロジェクト」が盛り込まれることが明らかになった。要求予算額は48億円で、今年度からスタートした次世代情報検索技術開発「大航海プロジェクト」の要求予算50億円とほぼ同等の重点施策に位置づけている。具体的には、例えばルーターが光ファイバーの光信号を電気信号に変換する際の電力損失を抑制することで、情報通信ネットワークの消費電力を40%減らす。また現行の半分の消費電力で動作する高性能半導体や、データセンターで発生する熱を再利用する技術などを開発する。エネルギーの減衰率を抑制し、情報システム全体で省エネを推進するとしている。
同省によると、情報システムが消費する電力は、全体の約5%。ブロードバンドの本格利用に伴って大容量の情報のやりとりが大幅に増え、ネットワーク機器がさらに大型化すると、2025年には電力消費全体の20%まで増大する。そこでIT機器の革新的な省エネ技術を開発することで、この予測を4割程度抑制できると同省は見積もっている。
ここでいう「グリーン」は、個別には環境への負荷が低い無公害型、省エネ型の資材や製品を指し、ひいては企業や産業のあり方の総称として使われる。97年12月の京都議定書を受けて01年に制定された「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(グリーン購入法)や「特定家庭用機器再商品化法」(家電リサイクル法)など、日本の取り組みが先行している。
■ITの省エネは米国先行
ただIT分野に限ると、必ずしもそうとは言い切れない。省エネ型プロセッサを開発したインテルは、今年6月、グーグルと共同で消費電力を半減する技術開発コンソーシアム「クライメート・セーバーズ・コンピューティング・イニシアチブ」を設立した。2010年までに年間で、自動車1100万台分に相当する二酸化炭素5400万トンの排出量を減らすとしている。またIBMは8月1日、毎年10億ドルを投入して世界のデータセンターに設置されている3900台のサーバーを、最終的に30台の大型サーバーに集約すると発表した。「プロジェクト・ビッグ・グリーン」がそれで、仮想化技術を応用してサーバー統合を実現、電力消費だけでなく、運用コストも大幅に削減できるとしている。
サン・マイクロシステムズは8月21日、カリフォルニア州に新しいデータセンターを稼働させた。サーバーを2177台から1240台に減らし、集積度を高めたことでフロア面積を約3分の1に縮小、省エネ型の最新プロセッサ「Ultra SPARC T2」を搭載したサーバーを採用するなどで、年間110億ドルの電力コスト抑制と、4100トンの二酸化炭素排出量削減を目標に掲げている。
インテルやグーグルは次世代のネットワーク・コンピューティング技術においてIBMは仮想化技術、サン・マイクロは新型プロセッサによるサーバー統合で、それぞれコスト削減を目標にするとともに、グリーンITを実証することで新しいビジネスチャンスの創出をねらっている。ことITの分野でのグリーン化への取り組みは、米国陣営が一歩先行といっていい。
日本の公害対策技術が世界をリードしたことを思えば、革新的な省エネ技術の開発に巨額の予算を投入するのも国家戦略として分からないではない。だが、現行の技術でもIT業界ができることはいくらでもあるのではあるまいか。
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