ITジュニアの群像

第57回 名古屋市立高針台中学校

2007/08/13 20:45

週刊BCN 2007年08月13日vol.1199掲載

 20歳以下を対象とする「U-20プログラミング・コンテスト」で、2006年度に、個人の部、優秀賞を受賞したのは名古屋市立高針台中学校2年生(当時)の森田陸離君だ。受賞作品の「Atomoo(エイトムー)」は、元素の周期表を学習するためのソフト。他の受賞者は、大学生、専門学校生、高校生ばかりのなかで、ただ一人の中学生受賞者となった。若きプログラミングの達人は、アキバ系とは程遠い、真っ黒に日焼けしたテニス少年である。(大川淳●取材/文)

ただ一人、中学生でU-20に入賞

元素の周期表学ぶソフト制作

小6でHTML学ぶ きっかけは図書館に


 「Atomoo」は元素の周期表を表示、それぞれの元素をクリックすると、別ウインドウが開き、その元素の発見者、発見された時期など18項目にわたる詳細な情報が示される。それらの、元素についてのさまざまな情報は「ウィキペディアを参考にした」と開発者の森田君は語る。

 このソフトを最初に思いついたのは中学1年生のとき。「理科の授業中、規則正しい周期表に興味をもった」ことが制作のきっかけだった。

 森田君は、父親が仕事で使っていたパソコンに、小学校低学年で初めて触れ、6年生になって、インターネットも利用するようになった。プログラムに関心をもちはじめたのは、やはり6年生の頃からだ。最初に手をつけたのはHTMLで、学校の図書館にあった雑誌の特集がとりあげていたHTML、Javaスクリプトが目にとまった。

 それから後、一般向けの専門書を読み、小6でプログラミングを始め、中学校に入学してからは、独学でC#に取り組むようになった。参考書はすでに10冊以上を読破している。それでも、完成させたプログロムは「Atomoo」が初めてだという。「途中までつくったプログラムは10個くらい。パソコンを使うと、失敗しても、また失敗しても、すぐにやり直しができる」。

 ちなみに、中学校でのクラブ活動は、軟式テニスで、コンピュータ関連ではない。

 「Atomoo」の制作は学校の勉強の合間を利用して取り組んだ。4月頃に開発を始め、作業は1日に1-2時間、週に3日、3か月ほどかけて「Visual Studio 2005 Team Suite」を使い、7月に完成させた。

 「見やすくすることをテーマにしていたので、そこを工夫するのがたいへんだった。データの入力にも時間がかかった」

 周期表は111種類の元素ボタンにより表示。元素ボタンは金属を黄緑色、非金属をオレンジ色にしており、さらには、常温の場合、固体であれば緑、液体であれば水色、気体なら赤で縁取るという工夫を凝らしている。コンテストの審査員も「元素の特徴ごとに分かりやすく色分けされており、理科の学習に役立つ。興味ある勉強分野を追求し、それをテーマとしてプログラム化した中学生らしい作品」と評している。

 「U-20プログラミング・コンテスト」は、20歳以下であれば、社会人でも挑戦できるが、応募してくるのは大半が大学生、高校生で、入賞者のうち中学生は森田君一人だけ。コンテストはこれまで27回開催されているが、これまで中学生の応募自体がなく、中学生の受賞は初めてのことだ。名古屋市教育委員会も、優良生徒として表彰している。「コンテストのことはインターネットで知り、親にも内緒だった」。コンテストに入賞してからも、特に変わったことはないが、「受賞のことを知って、友だちもコンピュータを身近に感じてくれるようになった」。

 今は、高校入試を控えた受験生だ。とりあえず、プログラミングは小休止している。「高校に入ったら、また、プログラミングをやりたい」。

 プログラミングに通じた15歳。この才能を生かして、理工系に進みたいのかといえば、そうではない。「プログラムはあくまで趣味。将来は何かモノをつくる仕事につきたい」。森田君が目指すのは、芸術やデザイン、製品よりは作品といえるかもしれない。


夢を追いかけさせるロボットコンテスト


 同校では、コンピュータ部があってクラブ活動でパソコンを扱っている、というわけではない。だが、03年から、学習の一環としてロボットコンテストを開催している。構想、設計、部品購入から組み立てまでを、生徒たちが取り組む。

 夏頃から準備を始め、年明け以降にコンテストがある。完成させたロボットの性能をいわば競技で「戦わせる」。個人戦では、物を積み上げる機能を競い合い、チーム戦では、二人一組で、ピンポン球を打ち出し、相手方の陣地に入れた数を競い合う。攻撃/防御、それぞれのロボットを使う。フィギュアスケートでの華麗な舞いで日本中を沸かせた浅田真央選手と姉の舞選手は同校の卒業生で、舞選手もロボットをつくったという。

 技術・家庭科を担当する土橋琢磨教諭は「ロボットづくりは、空想を現実化させることなので難しいが、生きて、働いていく力を養うことになつながる。生徒たちには、夢を追いかけて欲しい。失敗を恐れずに向かっていってもらいたい」と話す。


校内ロボットコンテストが一役 井上晴美校長


 「中学校では『情報とコンピュータ』の授業で、パソコンのキータッチ、データの保存など、操作の基礎を学ぶ程度で、とてもプログミングまでを教える余裕はない」と実情を語るのは技術・家庭科の土橋琢磨教諭。同校では、「コンピュータ室」に40台のパソコンを設置、LANで接続している。

 井上晴美校長は「パソコンは技術・家庭科の授業や、『総合的な学習の時間』で、社会のしくみを調べる際の検索に利用したりすることはある。他の学校では、美術の授業で、パソコンでデザインをする例もある」と語る。

 高針台中学校の場合、校内対抗のロボットコンテストが学習上の重要な役割を果たしている。クラブ活動としてではなく、一般の生徒が自作のロボットでコンテストに臨むという興味深い試みだ。

 いまの時代、モノづくりを経験する機会が減ってきている。そのような状況のなか、ロボットコンテストは、着想を目に見える形にする、という一連の「仕事」を、長い時間をかけて、やり遂げる機会を、中学生に与えてくれる。

 一から始めてモノをつくるということだけではなく、計画を立てて、クラスメイトと話し合い、作戦を考える、といった手順を学ぶことができる環境が身近にある。同校は、コンピュータを積極的に生徒たちに奨励しているわけではないが、このような気風、土壌が醸成されている。


BCN ITジュニア賞
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今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様

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外部リンク

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