地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情

<地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情>北海道編(下)

2007/07/30 20:37

週刊BCN 2007年07月30日vol.1197掲載

 全国有数の「IT集積地」である北海道のIT産業売上高は、「ITバブル崩壊」の2000年を除けば10年以上にわたり成長を続けている。北海道のIT産業は、「立ち上げ期」から「下請け集積地」を経て、「重要部品を製造供給する基地」へと転換し「成長期」に移行する時期を迎えている。(谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文)

首都圏の案件を道内で共同受託
異業種ビジネスマッチングが加速

■「地域産業+IT」を旗印にビジネスマッチングを図る

 現在、道内のシステムプロバイダ約170社が加盟する北海道IT推進協会(会長=安田經・HBA会長)を中心に、道内ベンダーがジョイントベンチャー(JV)型で「首都圏の大型業務を共同受託」することや、「地域産業+IT」として地域産業へIT利活用を促す活動を産官学で推進している。

 北海道は特にベンダー間の横のつながりが薄い傾向にある。同協会の前会長でエス・アイ・ユゥ(SiU)の山下司社長は「中小ITベンダーが大多数の北海道では、ベンダー1社でシステム開発をすべて賄うのは大変。個々の強みを持ち寄り、地域産業へ一緒に売り込めば、IT利活用が進むはず」と分析する。

 同協会などではここ数年、「地域産業+IT」を旗印に食品加工や観光、建設、医療など道内基幹産業関係者とベンダーを「ビジネスマッチング」するイベント開催や事業を展開。この成果は徐々に現れている。ソフトウェア販売主体のSiUは、自社ヒット製品である建設業向けERP(統合基幹業務システム)「PROCES・S(プロセス)」とデジタル複合機(MFP)などを地元建設会社にセット提案・販売することに成功した。内田洋行の子会社・SiUにとって「昔はライバルだった」(山下社長)北海道リコーとの画期的な協業である。

■ITCが積極的にかかわり中小企業のシステム化促す

 道内ITベンダーと地域産業の「ビジネスマッチング」──。最近では、この両者にITコーディネータ(ITC)や金融機関、法曹界などの関係者を加えたIT経営セミナーなどの開催が道内各地で頻繁に行われている。

 IT経営コンサルティングを強みにシステム開発・運用を手がけるインフォネット(岩谷公司社長)の執行役員でITCでもある佐々木身智子氏は「道内の中小企業に対しては、法律、資金など経営面を含めて支援しなければIT利活用は容易に進まない」と、異業種ビジネスマッチングの必要性を説く。「中小企業は大手SIベンダーの人月単価でシステムを発注するには資金力に乏しい」とみるインフォネットは、IT経営コンサルの立場から、得意技をもちながら安価な人月単価で請け負うITベンダーに開発を委託。共同でシステム構築を行う。

 オープンソースのWebアプリケーション開発会社、スペース(辻好博代表取締役)は、インフォネットのパートナー会社の1社。97年の創立当初、大手SIベンダーや企業向けの派遣業を生業としていた。だが、「道内のIT市場規模は小さい。特色を持たなければ生き残れない」(辻代表取締役)と危機感を抱いた。そこで、LAPP(Linux Apache PostgreSQL PHP)を中核技術として、BtoCのEC(電子商取引)を主体にWebサイト構築を手がけている。また、業務に応じてカスタマイズが容易にできるグループウェア「Shuttle(シャトル)」が道内で好調だ。「5年前に比べ全売上高が倍増した」と、業態変革を実現している。

 道内システムプロバイダのなかには、「特色づくり」の一環として自社開発のグループウェアを“武器”にするベンダーが複数ある。宛名印刷ソフト「宛名職人」など家電量販店向け製品で知られるアジェンダ(松井文也社長)もその1社で、Ajaxを採用したWeb対応型グループウェア「GRESSO(グレッソ)」の販売を開始する。同社は00年まで、コンシューマ製品が売上高の約8割を占めていた。「店頭商品は価格下落が著しく、経営を安定化するため企業向けビジネスを拡大すべき」(千葉均執行役員)と、企業向けビジネスを拡大中だ。

 アジェンダで主力事業に成長しそうな企業向けシステムとしては、海外航空券販売のワールドトラベルサービス(WTS)に提供するWeb型接続総合旅行業支援システム「SkyRep(スカイレップ)」がある。現在、旅行会社約800社、2000店舗以上が「海外航空券即時予約システム」として利用中だ。「知り合いを介して開発した案件」だが、このノウハウを生かし、中小旅行会社向け業務支援システム「SkyGlobe(スカイグローブ)」として“横展開”も本格化している。

■IT技術者のレベル高め「共同受託」に活路を開く

 一方、「共同受託」の動きも、道内ITベンダー内で活発化。2年前、旭川市内のシステムプロバイダで結成した任意団体「旭川ICT協議会」(会長=古川正志・北海道大学教授、現在35社加盟)は、オープンソースソフト(OSS)を皮切りにマイクロソフトの「・NET」技術を“手弁当”で学び、高度技術者を育成してきた。「市内でIT技術者のレベルを高め、共同受注など大型案件を請けられる体力をつけた」と、協議会設立に尽力し、GIS(地理情報システム)を利用した上下水道システム構築などを手がけるビーインフォーの北條孝三代表取締役は述懐する。

 今年4月にオープンした全国的に人気を博す旭山動物園のWebサイトは、マイクロソフトの協力を得て同協議会内で共同構築した。組織内で中核的に活躍する自治体データ作成などを手がける情報総合研究所の遠藤真一常務取締役は「製品開発も技術開発も1社ではできない。『旭川で仕事を請ける』という気概で結束していく」と決意を示す。

 道内システムプロバイダの売上高に占める「道内対道外」の割合を聞くと、大多数が「半々」と回答する。最近は、県外の比率を高める傾向が顕著。しかし、国内中小企業のIT化はまだまだ途上で、地域開拓の余地はありそう。ITを利活用し地域経済を底上げするうえで、地域基幹産業を中心にIT需要を掘り起こす仕組みづくりが急務であろう。

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