IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手
<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>8.大森精工編(下)
2007/07/09 16:18
週刊BCN 2007年07月09日vol.1194掲載
「改善」への意識づけにも寄与
中小企業のIT化で最も大きな課題は、いかに低コストでシステムを構築できるかということだ。プレス加工を主要業務とする大森精工も、「できるだけコストをかけない」ことを求めていた。運用コストを「パート社員1人に支払う月給の半分以下」と試算したのは、「人件費と同額では意味がない」(池田一秀社長)との判断からだ。そこで、適したシステムを模索する。担当するITコーディネータの田中憲之氏は、「06年度おおた工業フェアのセミナーで、テクノリンクという会社が生産管理システムをASPで、しかも導入コストを低額で提供している」という情報を仕入れた。テクノリンクは、低周波治療器などの医療機器メーカーだ。新領域への参入に向けてシステム開発元であるNTTアドバンステクノロジと共同でIT関連のASP事業に着手し、昨年7月から生産管理ASPサービス「MERCURY-K(マーキュリーケイ)」の提供を開始した。価格は初期費用が50万円程度、利用料金は、生産管理(月額1万9800円)と、受注売上・発注受入(同1万4800円)で構成され、毎月1000円のシステム管理費を含めても3万5600円。このほかに、工場内の情報端末(POP端末・月額800円)が利用社規模に応じて必要となる。テクノリンクの須藤雅樹・東京営業第三部ASP事業課主任は、「ASP事業に乗り出したのは、これまでとは異なった業種、しかも中小企業を新規顧客として開拓するため。できるだけ安く提供した」という。「例えていうなら、中小企業の社長が社員3人を焼鳥屋に連れて行くのを1か月に1回抑えれば利用できる料金に設定した」とのことだ。
大森精工では、まず受注売上・発注受入サービスを導入した。金属加工業界で当たり前の円未満計上に対応するため、本格的な利用開始はカスタマイズ後の今年に入ってからだ。池田社長は、「見積りや受発注、売り上げなどの一元化で把握できるようになった財務状況を踏まえ、どのように改善していくかを社員に意識づけできるようになった。徐々にではあるが、効果が出始めている」と実感する。業務フロー面では、今年中に生産管理、来年以降に在庫管理を開始する予定だ。
新規事業のインテリア製品の販売に関しては、「“問題児”に位置づけて経営戦略の策定を進めている」(田中氏)という。“問題児”とは、市場開拓に向けたマーケティングが現段階では必要で、成長に向けたビジネスモデルの構築により「将来的には収益を伸ばすための“花形”に育て上げる」という意味だ。製品化したインテリアランプは、自社のネットショップでの販売がメイン。製品のデザインやホームページの運営などを担当する大森精工営業課の吉野一也氏によれば、「ウェブの活用で、どのような見せ方をすれば売れるかを試行している」段階だ。
売上高について、「今年度は前年度比30%アップを目指している」と大森精工の池田社長は言う。ITの導入で業務やビジネスモデルを変革し、成長路線を敷こうとする姿がそこにはある。(佐相彰彦●取材/文)
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