IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>7.大森精工編(上)

2007/07/02 16:18

週刊BCN 2007年07月02日vol.1193掲載

成長の“礎”を築く

 「中小企業の集積地」といわれている東京都大田区。この地域では、製造業者の多くが苦戦を強いられている。機械部品の製作に複数の加工技術が必要なことから、これまでは区内の製造業者同士で連携する“横請けネットワーク”の形成などで成長してきた。だが、最近は大手得意先が海外発注へと移行した影響で、受注減が顕著になった。

 こうした状況下、情報管理システムの見直しによる業務改善、ネットショップで自社ブランド製品の拡販を図ろうとする企業も存在する。プレス加工やインテリア製品の開発・販売を手がける大森精工もその1社だ。IT導入で成長の“礎”を築こうとしているわけだ。

 同社は1968年の創業以来、自社内での金型製作や「絞り」といわれる金属の加工技術が強み。エアコンなど空調機器メーカーを主要取引先としている。「絞り」を生かしたインテリアランプを開発、自社ブランドで販売する新規事業も立ち上げた。池田一秀社長は、創業者の父親(現会長)からの事業継承で現職に就いた。“2代目社長”ということもあり、父親が積み上げてきた基盤を守ることに加え、取引先の海外シフトに危機感を抱いて「何かしなければならない」(池田社長)と、就任当時から考えていた。そこで、業務の効率化や業績の向上にITが使えないかと模索した。

 一方、大田区では産業の空洞化による中小企業の業績不振を打破しなければならないとITコーディネータの有志が集まり、05年8月から「モノづくり応援隊in大田区」による企業訪問活動が始まった。そのなかに大森精工も含まれており、担当したのがモノづくり応援隊のメンバーであるITコーディネータの田中憲之氏だ。田中氏は、「IT導入の依頼を受けるまで4-5回は訪問した。絶対に改善してもらいたかった」と振り返る。

 大森精工の池田社長は、「最初は、不審に思ったが、何度も来てくれるうちに田中さんにお願いしようかという気になった」そうだ。こうしたやり取りを経て同年10月に区内で開催されたITC全国大会「ITC Conference 2005」で大森精工の池田社長が田中氏に本格的な支援を依頼した。

 当時のシステムは、5年ほど前に知人が開発した受注管理システムであり、独自仕様だったため、メンテナンスが困難という事情があった。大森精工でシステム関連に詳しい営業課の吉野一也氏は、「実態は売上データ集計だけでしか使えていなかった」と打ち明ける。「受発注や生産、工程、在庫の管理が可能なシステムを導入したい」(池田社長)。しかし、受発注から在庫までを一貫して管理するパッケージ化されたシステムは構築費やメンテナンスの手間などで大きな負担になる。「システムにかかるコストは、パート社員1人に支払う月給の半分以下しか出せない」(池田社長)。そこで、ASPで生産管理システムの導入に踏み切った。(つづく)
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