ITジュニアの群像
第53回 愛媛県立松山工業高校
2007/06/25 20:45
週刊BCN 2007年06月25日vol.1192掲載
生徒全員がコンテストに挑戦
技を磨き、人格を磨く
参加6人が名乗り 校内でライバルに
同校生徒が参加するさまざまなコンテストのなかで、情報系ということになると「全国高等学校IT・簿記選手権大会IT部門」「全国高校生プログラミングコンテスト」「高校生ものづくりコンテスト・電子回路組立部門」などの人気が高い。
そのなかでも昨年全国5位となった「全国高校生プログラミングコンテスト」については、情報技術科の生徒が熱心に取り組んでおり、今年もコンピュータ同好会のメンバー6人が立ち上がった。3人ずつ2グループのエントリーなので、2つのグループはライバルとなる運命にある。
昨年の第27回大会では予選を3位の成績で通過して、決勝進出を勝ち取った。8校による決勝トーナメントでは開催地元の埼玉県立熊谷工業高校に1回戦で敗れてメダル獲得はならなかったものの、気をとり直して順位決定戦でがんばって5位となった。この時のメンバーはすでに卒業したが、今年は新たな精鋭が先輩たちのリベンジを狙っている。いずれも情報技術科の3年生だ。
「始めたばかりのJavaが楽しい」(一森直人さん)、「ゲームを作っていれば時間を忘れる」(栗原耕平さん)、「プログラムを組んでいる時が最高の幸せ」(渡邊剛さん)の3人が1チーム。そして、「Javaが大好き」(安川和樹さん)、「C言語なら任せてほしい」(徳本康平さん)、「HTMLやJava Scriptが性に合う」(門屋圭亮さん)の3人が1チーム。
全国高校生プログラミングコンテストは平成17年度から課題の出し方が大きく変わった。昨年の場合だと5月末から9月末にかけて出された計6回のヒントを元にプログラムを制作していくことになった。「出題の仕方が、段階的なステージをクリアしていくロールプレイングゲームのようで、生徒が興味を持ちやすいように工夫されている」(情報技術科・今井靖実習助教諭)と評価するものの、「チームを組んだ5月時点ではまだ一つのヒントも与えられていないので、生徒としても動きようがない」のが現状だ。
しかし「夏休みに入る頃から開発作業が本格化、秋を迎えてそろそろゴールが見え始めると、ものすごい力を発揮し始める」とのことで、「この半年間の生徒の成長は目を見張るものがある」との感想を述べる。今年の6名も今のところはまだノンビリだが、「その時がくれば必ずやってくれる。全く心配はしていない」と生徒に全幅の信頼を置く。そして生徒の自主性を尊重することから、プログラム開発に関して今井助教諭は一切口を出さない。「最初から最後まで生徒が工夫し努力するところにコンテスト参加の最大の意味がある」として、チーム内の役割分担や揉め事にも口を差し挟むことはない。
大会で得たもの 後輩へ引き継ぐ
チームで戦う「プログラミングコンテスト」に対して、個人で挑むのが「ものづくりコンテスト」だ。「ものづくりコンテスト・電子回路組立部門」で昨年全国9位となった電子科の山内元成さんは、当時2年生だった。今年こそと考えるのが普通だが、「今年は自分は出場せずに、出場する生徒のフォロー役に徹する」ことを自身で決めた。その理由を尋ねると、まさに松山工業高校のポリシーを感じさせるものだった。
まず、「電子回路組立に関する山内君の能力は相当に高い」(電子科・山内一樹教諭)という前提がある。昨年の全国大会においても、2年生ながら山内さんは順調にステップをこなし、完成まであと一息というところで、苦心して組み上げた計5段階のプログラムが消えてしまった。全国大会で緊張したとはいえ、消してしまったのは自分の責任。悔しいが仕方がない。結局9位という結果に山内さんが満足するはずもないが、全国大会で戦うなかで自信をつけたことは事実だ。「すでに山内君の実力は全国屈指。今後は次の生徒がチャレンジすることで、彼の技術が次の世代へと受け継がれていく。彼もそれを願って、今年出場する生徒の支援を行うことになった」ということだ。
「打てば伸びる」屈指の伝統校 松木統生校長
愛媛県立松山工業高等学校の開校は1909(明治42)年。今年で98周年を迎えた伝統校だ。家具科、造家科(建築科)という当時の産業界から要求の強かった2学科からスタート。時代の趨勢による学科編成を経て、現在は機械、電子機械、電気、電子、情報技術、工業化学、建築、土木、繊維の9学科体制となっている。「自ら学び、自ら律し、自ら鍛えることができる生徒の育成」─生徒の個性を尊重し、創造性を伸ばす教育の実践─を指導目標とし、全国でも屈指の歴史を持つ工業高校として地元の評価は高い。全国の工業系学科に在籍する高校生が高度な国家資格を取得したり、全工協会の検定試験に合格するなど工業高校を対象にしたジュニアマイスター顕彰においても7位にランクされ、全国レベルでの活躍が目立つ。
四国の中心都市・松山市は、住みやすい文化都市として知られ、化学・機械・石油などの大手企業が拠点を並べる工業都市としての性格をも併せ持つ。つまり卒業生の受け皿も潤沢に用意された土地柄であり、2年生全員による地元企業への就業体験(インターンシップ)を毎年行うなど、「地域社会との連携」にも積極的に取り組んでいる。「技と人格を併せ持つ本当のテクノロジストを育てる」という松木校長の思いは、生徒たちの明るい挨拶にも感じ取れる。
「打てば伸びる」というのが松木校長の信念だ。
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